都築響一がつくる東京アンダー文化の博物館

大道芸術館

公式サイト
住所
東京都墨田区向島5-28-4 大道芸術館
最寄駅
曳舟駅 徒歩10分、押上駅 徒歩13分
URL
https://museum-of-roadside-art.com
支払情報
キャッシュ、クレジットカード(タッチ決済可能)、交通系IC
SNS
Wi-Fi
あり
対応言語
日本語・英語
料金システム
料金は、2階の館内見学とバーを利用するスタイル(バーチャージ1500円+ドリンク代/金土は17時まで3000円ワンドリンクフリー)と、見学のみ(2000円)のふたつがあります。

2022年に東京の下町にオープンして以来、独自の展示と空間演出で注目を集めている『大道芸術館(museum of roadside art)』。路傍の編集人・都築響一がキュレーションを手がけるこの館には、昭和の空気をまとった看板や雑貨から、大胆な表現のアート作品まで、時代もジャンルも異なる品々が所狭しと並び、一歩足を踏み入れると、ネオとレトロが交錯する摩訶不思議な世界に引き込まれます。

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下町、「向島」は花街がある粋な場所

レトロとネオが入り混じった異空間『大道芸術館』。その博物館があるのは、粋な浅草から隅田川を渡った“川向こう”。東京スカイツリーがそびえ立つ押上駅から徒歩15分、のんびりした東京下町に「向島(むこうじま)」という地域です。
向島は江戸時代より料亭が連なり、花街として栄えてきた地域です。関東大震災後は、工場地帯として発展していったことから中小工場で働く人々が、向島の料亭をサポートしてきたとも言われています。

東京スカイツリーを望む向島の街並み。観光地の浅草から隅田川を渡るだけで、落ち着いた下町の風景が広がる。

また向島と東向島の境界線にはかつて「鳩の街」と呼ばれていた歓楽街がありました。この街を舞台に、作家・永井荷風が戯曲『春情鳩の街』を書き、その作品は映画化されています。現在の向島は、地元愛のある人々が住む閑静な住宅街。しかし今もなお、芸妓のいる料亭が数軒あり、花街として栄えています。『大道芸術館』はその花街にあり、もともと料亭だった建物を利用して、2022年10月に博物館としてオープンしました。

向島の花街に建つ『大道芸術館』。もともとは料亭として使われていた建物を改装し、博物館として公開しています。

夜になると光る入口のライト。小さなサインが、隠れた博物館の目印になっています。

この博物館をキューレーションするのは、70年代より活躍する編集者、写真家、ジャーナリストとして活躍してきた都築響一氏。館内には、都築氏が長年かけて集めてきたさまざまなアートやものが、文化を紹介するように展示されています。秘宝館や見世物小屋などの絶滅間近の消えゆく「大衆アート」から、チープアート、路傍のアート、エロスを文化として捉え、レトロとネオが入り混じった空間が、3階建ての建物の中に広がっています。

扉を開けた向こうに広がるユートピア

入り口ののれんをくぐりチャイムを押すと、学芸員(スタッフ)が扉を開けてくれます。そこで出迎えるのは、秘宝館「SF未来館」からやってきたユニークな立体オブジェの“タマゴさん”。そしてもうひとつ、写真家・やなぎみわの作品「エレベーター・ガール」もならびます。建物は元料亭だったため、エントランスでは靴を脱いでスリッパに履き替え館内へ入ります。

三重県鳥羽市にあった秘宝館「SF未来館」で展示されていたオブジェ“タマゴさん”。昭和の秘宝館文化を象徴するユーモラスな立体作品。

写真家・やなぎみわによる作品「エレベーター・ガール」。日本の女性像をテーマにした代表的シリーズのひとつ。

最初に通されるのは、1FにあるキャバレースタイルのVIPルーム。真っ赤なベルベットと柄が入った布の壁が目を引く空間です。奥には蝋プロダクションを営む蝋人形師、松崎覚さんが手がけた“大トロさん”と呼ばれる迫力の姉御蝋人形が、迫力たっぷりに鎮座しています。
壁には、70年代に制作された「ベルベットペインティング」と呼ばれるアメリカのチープアートを代表した絵画が展示。そして、ガラステーブルの中には日本のメーカー・オリエント工業が一体ずつ制作している「ラブ・ドール」が横たわっています。「ラブ・ドール」とは、精巧な人形として世界的にも知られる、日本独自のサブカルチャーを象徴する存在です。

赤いベルベットに包まれたVIPルーム。昭和キャバレーの雰囲気を再現した展示空間になっています。

日本メーカー・オリエント工業が制作するラブ・ドール。

昭和レトロなこの部屋はパーティルームとしても使用可能で、面白い映像がバックに流れるレーザーディスクのカラオケを楽しむことができます。

ラブ・ドールが出迎えるネオなバー「茶と酒わかめ」

2階へ上がる階段には、三重県伊勢市にかつて存在していた「国際秘宝館」の人気キャラクター“秘宝おじさん”が、こちらへどうぞとばかりにスタンバイしています。階段にはロッキン・ジェリー・ビーン、大竹伸朗、水野純子、花代など、さまざまなアーティストたちの作品が展示されています。アイデアに満ち溢れた魅力のあるアート作品の数々に、気持ちが和らいでいくことを感じます。

三重県伊勢市の観光施設「国際秘宝館」で展示されていた人気キャラクター“秘宝おじさん”。来館者を迎えるシンボル的存在。

階段の壁には国内外のアーティスト作品が並び、上階へ向かう通路そのものが展示空間になっています。

仮面画家として知られる、ロッキン・ジェリー・ビーンの作品。ロックカルチャーとピンナップアートを融合した作品が鑑賞できます。

2階に到着しレースのカーテンをくぐると、バー「茶と酒わかめ」へ。オリエント工業が制作したラブ・ドールたちがズラッと雛壇に並んだ光景に遭遇する。メイド・イン・ジャパン技術が生み出した精巧な人形が、来訪者を迎えます。バーの背後には約70年前に絵師の志村静峰が描いた圧巻の見世物小屋のバナーが展示され、その空間に最初は驚いてしまうでしょう。

バー「茶と酒わかめ」。展示作品に囲まれながらドリンクを楽しめる、『大道芸術館』の憩いの場です。

昭和期の見世物小屋文化を伝える巨大バナー。絵師・志村静峰による手描き作品。

バーのテーブルには「ピンク映画」と呼ばれる50~60年代の映画のポスターが陳列し、昔懐かしいテレビデオではVHSをメインに昭和のポルノ映画が流れています。ショーケースの中には恐竜模型制作で有名な荒木一成さんによる「春画人形」のコレクションが展示されています。館内のあちらこちらに作品が展示されているので、バーでドリンクを楽しみながらゆっくり時間を過ごすことで、より一層、博物館の魅力を知ることができます。
ドリンクメニューには、“Mon  De Nome(揉んで呑む)”と呼ばれるお客さん参加型のメニューをはじめ、オリジナルカクテルなどのスペシャルメニュー、ノンアルコールカクテル、ソフトドリンクがあります。

ガラスケースの中には春画人形をはじめ、エロスを感じるさまざまな置物が展示されています。

英語でも対応してくれる、学芸員たちが館内展示を解説してくれます。

来店者が参加して完成させるカクテル「Mon De Nome(揉んで呑む)」(2,800円)。ユニークな体験型メニュー。

『大道芸術館』オリジナルカクテル「セックスゲリラ」(1,500円)。館内の世界観を反映した名前もユニーク。

鳥羽のコーヒーショップ「TORIBA COFFEE」によるオリジナルブレンド(1,200円)は、バーでも注文できます。

昭和の大衆文化遺産「秘宝館」の残り香、ここにあり

「秘宝館」とは、 1970年代あたりから、2000年代半ばにかけて大人気を呼んだ、エロティシズムをテーマにした大衆向けのアダルト博物館(18禁)のことです。その秘宝館が残した軌跡を今の時代に伝えようと、3階には、かつて三重県鳥羽市にあった“エロ宇宙SF未来度”をテーマにした秘宝館「SF未来館」を再現した展示があります。長期に渡り全国の秘宝館を取材してきた都築氏が、この施設が閉館した際、秘宝館の文化を後世に伝えたいと展示されていた人形を買取りました。そして約20年間の月日を経て、小さいながらもついに展示が実現しました。

日本を代表する蝋人形師・松崎覚による作品。

ガーナのローカルアーティストが麦の袋に手描きで描いた映画ポスター。世界的にコレクターが存在。

別の個室には2体の蝋人形や、思わず笑えてしまうガーナの映画のポスターが展示されています。化粧室にもさまざまな作品が展示され、女性トイレは昭和キャバレーダンサーたちの写真が並ぶ小さなギャラリーのよう。思わず長居してしまう空間になっています。

水森亜土(通称あどちゃん)の作品。昭和のポップカルチャーを代表するイラストレーター。

女性トイレの壁には昭和キャバレーのダンサー写真が並ぶ。小さなギャラリーのような空間。

3階から屋上にかけての階段にも作品が展示されており、中でも昭和のヒーロー「月光仮面」が描かれた色鮮やかな見世物小屋のバナーは圧巻です。その他、谷岡ヤスジが手がけたシルクスクリーンや、都築氏が見出した無名アーティストの絵画を観ることができます。チルできる屋上からは、東京スカイツリーや空の広い向島の光景を一望できます。

昭和の見世物小屋文化を伝える巨大バナー。絵師・志村静峰による手描き作品。

日本のギャグ漫画家の巨匠である漫画家・谷岡ヤスジのシルクスクリーン。

3階から続く屋上スペース。展示を見たあとに休憩できる場所として利用できます。

屋上から見える東京スカイツリーと、空が広く下町らしい向島の街並みを見れる。

都築響一のブックコーナーで、よりアートを深く知る

2階のブックコーナーには、都築氏がこれまでに手がけた作品集が置いてあります。閲覧自由なので、バーを利用して手にとって席で観ることもできます。主な作品に『ROAD SIDE USA』『TOKYO STYLE』『Happy Victims 着倒れ方丈記』、『HELL 地獄の歩き方』『珍世界紀行』など多数、また都築氏が編集を手がけた世界中のアーティストたちの作品を紹介した55冊の作品集『ARTANDOM』も置いてあります。
これらの本や作品集を通して、独自の視点で文化を深掘りする都築氏を知ることができるだけでなく、ページをめくることで『大道芸術館』の展示をより一層楽しめるはずです。

『大道芸術館』のキュレーター、都築響一氏。編集者・写真家として日本の大衆文化を長年取材してきた。

都築氏の代表的な著作。路上文化や日本の生活文化をテーマにした作品が多い。

バーエリアの一角に設けられたブックコーナーの本は、自由に閲覧することができる。

都築氏の著作が並ぶ棚。日本の大衆文化やアンダーグラウンドカルチャーをテーマにした作品が多い。

都築氏が編集した世界各国のアーティストを紹介する全55冊のアートブックシリーズ『ARTANDOM』。

ここにしかない、オリジナルグッズ販売やイベントも開催

エントランス付近には、お土産コーナーがあり、オリジナルグッズをはじめ、アーティストと『大道芸術館』によるコラボレーションアイテム、都築氏が編集を手がけた作品集や書籍、「おかんアート」と呼ばれる全国のおかん(母)が作った手芸品なども販売しています。都築氏が紹介する展示作品の詳細がわかる『図録』(日本語・英語・中国語)は必須。オリジナルのガチャガチャも人気です。
そして『大道芸術館』では不定期にイベントも開催。都築氏がセレクトする映画鑑賞会「金曜ロードショー」や、月イチでコスプレ声ちゃんが主催するDJパーティ「夜のメカニズム」、その他トークショー、演劇など、博物館を利用したさまざまなイベントも不定期に開催。アート観覧だけでなく、体験型の楽しみも提供しているのも、この場所の魅力です。

入口近くにあるミュージアムショップ。展示に関連した書籍やオリジナルグッズを販売しています。

都築氏が編集した書籍や作品集。日本の大衆文化やアンダーグラウンドカルチャーを紹介する内容が多い。

展示内容を解説した図録も販売。日本語(1,500円)・英語・中国語(1,100円)で読むことができます。

「おかんアート」と呼ばれる手芸作品。全国の母たちが制作したユニークな作品が並びます。

編み物アーティスト堀の内と『大道芸術館』のコラボによるニットバッグ。(13,500円)

『大道芸術館』オリジナルのブルゾン(90,000円)とTシャツ(5,500円)。展示の世界観をモチーフにしたデザイン。

館内限定のオリジナルガチャガチャ。来館記念として人気のアイテム。(1回 500円)

ガチャガチャの景品。『大道芸術館』のモチーフをデザインしたグッズが入っている。(全5種類)

勇気をもって入り口のチャイムを鳴らしてみよう

『大道芸術館』の女将、今田篤子さんよりメッセージをいただきました。
「今のご時世では、エロに関する発言はNGだったり、制限も強化されていますが、その状況を窮屈だと感じている人たちも多いのではないでしょうか。『大道芸術館』がオープンした2022年はコロナが少し収束した時期でした。コロナ禍でSNSがさらに広がり、みんなが携帯で情報を得る時代になった。そんなタイミングでこの場所がオープンしたことが面白いなと個人的に思っていました。入り口のピンポンを押すのだけが少しハードルが高いですが、押してしまえばその後のハードルは低いので安心してください(笑)」(今田)

『大道芸術館』の女将・今田篤子さん。来館者を迎え、展示の背景や文化について丁寧に説明してくれます。

Photo: Ken Ogawa / Text: Kana Yoshioka

この記事の内容は2026年04月21日(公開時)の情報です