サッカーの新しい楽しみ方を提案する古着店
下北沢の中心地から少し離れた静かな住宅街にある『KIMAMA』は、サッカーのゲームシャツを中心に扱う古着店です。欧州クラブや各国代表のヴィンテージユニフォームを、背番号や選手の記憶から選ぶという独自の楽しみ方を提案。店内には非売品のアーカイブや店主手作りの内装も広がり、フットボールカルチャーを立体的に体感できます。
古着店がひしめく下北沢の中心エリアから少し離れた、世田谷区代沢の閑静な住宅街にある『KIMAMA』。にぎやかな駅前を通り抜け、緩やかな坂を下っていくと、周囲は驚くほど静かで落ち着いた空気に一変します。
この店で扱うのは、欧州クラブや各国代表のヴィンテージを中心としたサッカーシャツ。とりわけ、実際に選手が試合で着用するサッカーユニフォームをベースにした「ゲームシャツ」を数多く取り揃えているのが特徴です。
店主のリキジュ氏によると、「初めて来る人は、どこにあるか迷っちゃうことが多いんですよ(笑)」という隠れ家的な立地ですが、建物の1Fにポツンと置かれたゲームシャツが同店の目印になっています。
店頭のラックには、イングランドのプレミアリーグを牽引する「ビッグ6」をはじめとする歴史的な名作がずらりと並びます。特徴的なのは、多くのシャツがあえて「裏返し(背番号側)」を表にしてディスプレイされていることです。
「サッカー少年たちって、好きな選手の背番号やネームを部屋に飾るポスターみたいに眺めたいんですよ。前向きだと誰のシャツか一目ではわからないパッと見分からないですから」
その言葉通り、背中に刻まれた名前や番号は、かつてピッチを沸かせたスターたちの記憶や、当時の試合の熱狂を鮮やかに呼び覚ますトリガーとなっています。チームカラーや胸のスポンサーロゴだけでなく、「誰が、いつ着ていた一着なのか」というストーリーから選ぶことこそが、ゲームシャツの贅沢な楽しみ方なのです。
あえて裏返し(背番号側)で陳列。お気に入りの選手を直感的に探せる『KIMAMA』ならではの遊び心溢れるディスプレイ。
そうしたフットボールへのロマンを支えるのが、店主のストイックな年代判別へのこだわりです。「2007-08」といったシーズン表記の基準はもちろん、胸スポンサーの質感や、各年代のサプライヤーが採用した独自のテンプレート、さらにはリーグ戦とカップ戦で切り替わるフォントの微細な差異にまで目を光らせます。
海外の専門アーカイブサイトと1枚ずつ照らし合わせながら特定していくその姿勢は、ヴィンテージデニムやミリタリーウェアの歴史を紐解くような深い探求心に通じるものがあります。
『KIMAMA』に並ぶゲームシャツは、どれもフットボールの歴史を彩った貴重なプレミアムピースばかり。しかし、これほどの専門性と高いクオリティを誇るアーカイブでありながら、価格は「男の趣味」としてギリギリ手の届くラインに抑えられています。
「コレクション目的も否定はしませんが、服である以上は、やっぱり着て街に出てほしいんです。高校生や大学生が一生懸命アルバイトをして、自分のために買えるラインを置いておきたい。そこだけはブレたくないんです」
フットボールの歴史を宿した貴重な一枚を、日常のスタイリングに合わせて身に纏う面白さを届ける。そんな一着を現実的な価格で手渡すことこそが、店主が何よりも大切にしているこだわりです。
マンチェスター・ユナイテッドのスポンサーが『SHARP』から『Vodafone』へ移行した時期のモデルや、リバプールを象徴する『Reebok×Carlsberg』の黄金タッグ、アーセナルが無敗優勝を成し遂げた『O2』スポンサー期など、いわゆる「ビッグ6」の歴史的名作がずらりと並びます。
『KIMAMA』に溢れるフットボールへの情熱は、販売されているゲームシャツだけにとどまりません。サイン入りユニフォームやスパイク、当時のボックス付きで展示されたアディダス『プレデターマニア』のオリジナルなど、そこに並ぶのは、売り物ではないからこそ、この場所に流れるフットボールの記憶を物語る品々。 訪れる人は商品を選びながら、『KIMAMA』という空間に積み重ねられた熱量にも触れることになります。
『KIMAMA』のフットボール愛が宿る空間には、店主自身の手の跡が色濃く残っています。店内に入ってまず目を奪われるのが、窓際に積み上げられたアナログテレビのタワーです。かつてカラオケボックスで使われていた無骨な小型ブラウン管は、関東中を巡って自ら収集し、組み上げたもの。すべては自身の収集癖から始まったというこのモニュメントが、ショップの独創的なアイコンとなっています。
店内の心地よさを形作っているのは、そうした尖った店主の感性だけではありません。知り合いから譲り受けたロッカーや網フェンス、人工芝を敷き詰めた『トイ・ストーリー』風の試着室、祖母から貰った古いキャリーケースなどが、私物と売り物の境界線を無くしています。
さらに、店内の至る所に飾られた絵画やグラフィック、そしてオリジナルブランド『ATHES(アザス)』のアートワークにも、店主の感性が発揮されています。ブランドのモチーフは、歪んだ形の「地球」。そこには「どんな形でもいい」というメッセージが込められており、古着特有の個体差や不完全さを魅力として受け入れる『KIMAMA』の価値観とも重なります。
『KIMAMA』が表現するフットボールへの偏愛は、独自の空間づくりだけにとどまらず、具体的なスタイリングの提案にも反映されています。
「出自も時代も分からないような色落ちや経年変化を重ねたユーズドウェア、スタジアムの熱狂や歴史を背負った鮮やかなゲームシャツ。その一見交わらない二つをどう組み合わせて街着に馴染ませるか、そこに古着としての楽しさがあるんです」
その言葉通り、提案されるスタイルは、ゲームシャツの鮮やかな色彩やストリート感を主役に引き立てながらも、チノパンやスラックス、アイウェアといった日常のワードローブと合わせて、シティユースへと落とし込んでいます。歴史的なアーカイブをただ愛でるだけにせず、ファッションとして自由に、そして軽やかに楽しむ。それこそが、古着屋『KIMAMA』が一貫して発信し続けるゲームシャツの新しい提案そのものなのです。
この記事の内容は2026年08月11日(公開時)の情報です

