2026.07.23
記憶をまとう時代を作ってきた古着。裏原宿の隠れ家
日本のファッションカルチャーを象徴する、原宿の喧騒から少し離れた場所に、世界中のファッションフリークに高感度なユース世代を引きつける古着店、『PAT MARKET』はあります。コロナ禍という困難な時代を背景に誕生し、口コミだけでその名を広げてきたこのショップは、4人のオーナーによる独立したセレクト眼がひとつの空間に共存する、新しい形のコレクティブショップです。過去の名作を現代のストリートへと地続きでつなぐ、『PAT MARKET』を取り上げます。
原宿駅から歩くこと約10分。アパレルショップが立ち並ぶキャットストリートから1本裏手へ入ると、その古着店は現れます。古い民家を丸ごとスタッフ自らリノベーションした2階建ての建物が、今回紹介する『PAT MARKET』です。
大通り沿いのような派手な看板はなく、あらかじめ場所を調べておかなければまず辿り着けない、まさに隠れ家と呼ぶにふさわしい佇まい。しかし、一歩足を踏み入れれば、そこには外観からは想像もつかない濃密なファッション世界が広がっています。
オープンしたのは、世界的に外出の制限を余儀なくされていた2022年1月。決して恵まれたスタートではなかったものの、SNSや純粋な口コミでハイセンスなセレクトが徐々に拡散されていきました。今や、ショップを訪れるゲストの約6割が海外からの旅行者だそう。なかには、世界的に有名なファッションデザイナーのラフ・シモンズ氏やジョニー・ヨハンソン氏、さらにはラッパーのエイサップ・ロッキー氏といった世界的なトップアーティストらが、お忍びでショッピングに訪れるほどです。
「RAF SIMONS」の創業者であり、現在は「PRADA」のクリエイティブ・ディレクターを 務めるラフ・シモンズ氏
その一方で、日本の20歳前後の学生や若いファッショニスタ達も日常的に集います。世代や国籍を超えて人々が引き寄せられる理由は、異なる背景を持った4人のオーナーが、それぞれのフロアを独立してディレクションしているというユニークな構造にあります。
店内は1階と2階で異なる空気感のセレクトが展開されています。1階を担当するのは、池袋で『Only One』を運営するハルト氏と、同じく池袋でレディース中心の『PAT MARKET』2号店を手がけるハヤシン氏の2人。1990年代〜2000年代の原宿カルチャーが勢いに乗っていた時代の空気感をベースに、現代の若い世代のシーンにフィットするヨーロッパのコレクションブランドなどをミックス。ストリートとモードの境界線を心地よく融解させたフロアとなっています。
一方、階段を上がった2階フロアは、原宿で『CC STORE』内で『Corrida』も営むジン氏とヒカル氏の2人がセレクトを展開する空間。こちらは1990年代から2010年代初頭の日本のデザイナーズブランドを中核に据え、厳選されたインポートアイテムも並んでいます。
2階のフロアをディレクションするオーナーのジンさんと、DJやスタイリストとしても活動するスタッフのIOさん。
どちらのフロアにも共通しているのは、単なる古着ではなく、カルチャーの文脈のあるアーカイブとしての価値を提案している点です。「Maison Margiela」や「COMME des GARÇONS」「BALENCIAGA」といったブランドがあるかと思えば、2000年前後の「BOUNTY HUNTER」や「UNDERCOVER」といった裏原宿の全盛期をアイテムも同居しています。さらに2階では、「SWAGGER」や「NITRAID」といったヒップホップ文脈のブランドから、「KTZ」や「Jeremy Scott」などといった、音楽をバックボーンに持つブランドが置かれており、独自の存在感を放っています。東京という都市が経てきた独自のファッション史を、そのまま凝縮したラインナップこそが、日本らしさとも言えるかもしれません。
『PAT MARKET』が提案するのは、単に過去の名作を珍しがるスタイルではありません。現行のトレンドに対して、自分達が今、本当にカッコいいと信じる過去のピースをどう融合させるか、というパーソナルな解釈だと、オーナーのひとり、ジン氏は話します。スタッフの着こなしも、そのフィロソフィーを体現しています。現行のドメスティックブランドやハイブランドの新作に、20年前のアーカイブを違和感なく落とし込むこともあれば、時代を象徴するヴィンテージだけで全身を固めつつも、シルエットやアクセ使いで今のスタイルへと昇華させることも。ルールに縛られず、ファッションが持つ歴史を自分の個性として着こなすためのヒントが、彼らのスタイリングには詰まっています。
単なる古い洋服の売り買いを超えて、ファッションを起点に新たなカルチャーが生まれている『PAT MARKET』。ここには、アンダーグラウンドな熱量から、オーバーグラウンドなメインストリームまで、多様な価値観が交差する新しいファッションの在り方があります。ただ消費されるだけのトレンドに退屈しているなら、ぜひこの場所を調べて、自らの足でその扉を開けてみてください。東京のストリートの新しい1ページが、ここから始まっています。
2010年代初頭に爆発的な人気を集めた「adidas originals by originals Jeremy scott」のスニーカー。その存在感は今なを健在です。
この記事の内容は2026年07月23日(公開時)の情報です


