2026.01.30
PR東北地方に古くから伝わるある民芸の技術が、今、世界から注目を集めています。それは、防寒や補強、補修の手段として生まれ、現代まで受け継がれてきた刺し子。その技術や文化を世界に発信する職人集団、サシコギャルズの拠点である岩手県大槌町を訪ね、東日本大震災からはじまった彼女たちの歩みを取材しました。
刺し子は、冬の寒さが厳しい東北地方で江戸時代に発祥しました。古くなった着物に、古布を幾重にも重ねて細かく糸を刺す手仕事で、貧しい農村部などで貴重だった木綿を防寒着として長く使うために発展した文化です。
刺す人によって異なる運針が出来映えに差を生み、伝承の過程で見た目の美しさも磨かれていきます。針目によって幾何学模様や吉祥文様を描く芸術性や装飾性の獲得によって、単なる補修の手段を越え、文化として伝承されてきました。青森県の津軽こぎん刺しや南部菱刺し、山形県の庄内刺し子なども、刺し子の一種。同じ東北地方のなかでも異なる特徴をもった刺し子が地域ごとに存在しています。
そんな刺し子発祥の地である東北地方で、今、世界中から注目を集める職人集団がサシコギャルズです。岩手県大槌町に住む40代から80代の女性で構成され、従来の刺し子の枠にとらわれない表現を通して、刺し子の可能性を広げています。
スニーカーやぬいぐるみといった既存の題材に彼女たちが刺し子を施すと、唯一無二の魅力あふれる作品に生まれ変わります。日本のみならず世界中にファンを増やし、国内外の著名人が愛用したり、有名企業やブランドから協業依頼を受けるようになりました。
現在のサシコギャルズのメンバー。一番左がインタビューに答えてくれた佐々木加奈子さん。
このサシコギャルズの活動の発端は、2011年の東日本大震災にまでさかのぼります。大きな被害を受けた岩手県大槌町で、震災ボランティアによって大槌復興刺し子プロジェクトが発足しました。震災後、がれきの撤去など力仕事に追われる男性と比べ、避難所の中で一日を過ごすことが多かった女性たちの心のケアを目的とした活動でした。刺し子初心者は練習をして技術を身に着け、上達すると仕事として取り組み工賃が支払われます。主な仕事は刺し子を施したふきんやコースターなどオリジナルグッズの製作ですが、無印良品、中川政七商店、オンワード樫山といった有名ブランドのOEM製作もおこないました。自身も被災者であり、このプロジェクトの初期から活動を続ける佐々木加奈子さんは、刺し子の運針に集中している間は無心になれるので、辛い現実を忘れられた、と当時を振り返ります。
最盛期には約200人が参加しましたが、長年続けるうちに参加者が少しずつ離脱し、リニューアル前は、有志十数名での活動となっていました。そんななか、コロナウィルスの流行によって、活動の存続危機を迎えます。そこで、大槌刺し子プロジェクトと長年協力関係にあったアパレル会社、MOON SHOT代表の藤原 新(ふじわらあらた)さんへ相談。MOON SHOTとの共同事業という形で、2024年にサシコギャルズをスタートさせました。大槌刺し子プロジェクトから技術を継承しながらも新たなスタートを切った目的は、大槌刺し子の可能性を広げ、その技術をブランド化し、グローバルに発信すること。そして、復興から始まった大槌刺し子の、復興の先を示すことです。その目的を果たすべく、ファッション関連企業との協業やワークショップイベント、メディアを巻き込んでの発信といった新たな活動を積極的におこない、現在に至ります。
サシコギャルズの活動では、それまで培った技術を駆使して、より現代的な作品づくりに挑戦してきました。佐々木さんによると、大槌刺し子プロジェクトで製作してきたものとまったく違う表現は、新鮮で刺激的だったといいます。
「それまでは、決められた型どおりにきっちり刺すという仕事がほとんどだったので、スニーカーやぬいぐるみといった既存品や立体物に自由に刺すのは、驚きもありましたがわくわくしました。でも最初は、これを刺し子って言っていいんだろうか、と少し不安になりました。今では型にはまらない自由な発想が、次の世代や世界中の人に知ってもらうことにつながっていると感じています」
そうした姿勢で生み出した魅力的な作品は次第に多くの人の目に止まり、やがて国内外のブランドから協業の依頼が多く寄せられるようになります。アウトドアウェアでおなじみのTHE NORTH FACEとの協業では、本格的なダウンジャケットやダウンブーツに刺し子を施しました。最新のアウトドアウェアに、日本に古くから伝わる手仕事が加わり、存在感のある逸品に仕上がりました。
THE NORTH FACEとのコラボレーションで生産されたダウンジャケットの肩ヨーク布に刺し子を施しているところ。ブランドからの希望である伝統文様を組み合わせて作図。
今、サシコギャルズが目指すのは、刺し子を大槌町の未来につなげることです。刺し子を産業として育てるという新たな目標の一環として、高校生に向けた刺し子の授業も始まりました。
「この大槌町の若い人たちの職業選択のひとつになるように、発展させるのが目標です。刺し子をやりたいと思う若者が増えるような魅力的な発信をこれからも続けていければと思っています」
そして、佐々木さんがおすすめしてくれたのは、お気に入りの持ち物に自分でワンポイント刺してみること。けっして熟練した技術がなくとも、自分でひと手間加えるという行為が持ち物への愛着をより強くするといいます。
「針と糸があればすぐにできますし、基本的な運針なら技術は必要ありません。自分で手を加えたものは愛着が湧きますよね。持ち物を長く使うことに自然とつながるんじゃないかな」
復興をきっかけに生まれ、いまや世界へと広がるサシコギャルズの活動。彼らの歩みが地域の未来を照らしています。
自分たちが手掛けたジャケットの完成品を事務所で初めて目にするメンバーのみなさん。







