東京の祭りと伝統芸能を支えてきた老舗の太鼓店

宮本卯之助商店 西浅草店

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1861年に創業し、和太鼓や神輿など、東京の祭りや伝統芸能に欠かせない道具を手がけてきた『宮本卯之助商店』。浅草にある工房では、職人たちが木を削り、皮を張り、今も手作業でものづくりを受け継いでいます。西浅草店には、太鼓や神輿はもちろん、伝統技術を生かしたオリジナルの日用品や雑貨など、日本文化を現代の暮らしの中で楽しめるプロダクトも充実しています。

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祭りや舞台に欠かせない、日本の伝統楽器・和太鼓

「和太鼓」は、日本の祭りや神社仏閣の儀式、歌舞伎や能などの伝統芸能に欠かせない楽器です。その力強い音色は場の空気を一変させ、人々の気持ちを盛り上げたり、ときには厳かな緊張感をもたらしたりしてきました。ひと口に「和太鼓」といっても、その種類はさまざま。体に響く芯のある音を出す「長胴太鼓(ながどうだいこ)」、甲高く突き抜けるような高音が特徴の「締太鼓」、軽量で踊りを入れたパフォーマンスにも使用される「桶胴太鼓(おけどうだいこ)」など、用途や演奏スタイルによって使い分けられてきました。

見た目にはもっとも馴染み深い「長胴太鼓」。直径30cmから90cm以上のものまで幅広いサイズがあります。

バチで叩いて演奏するものを太鼓(たいこ)と呼ぶのに対して、手で叩いて演奏するのものは鼓(つづみ)と呼びます。写真は能楽や歌舞伎に使用される能楽長唄太鼓。

『宮本卯之助商店』ではこのような多種多様な和太鼓をはじめ、神輿や笛など、日本の祭事や伝統芸能に欠かせない道具を手がけてきました。1861年に茨城県で創業し、1893年に浅草へ。以来130年以上にわたり、宮内庁や歌舞伎座、国立劇場、浅草神社、明治神宮などにも太鼓や神輿を納め、東京の祭事と伝統芸能を支えてきました。

1964年の東京オリンピック開会式では、高さ8メートルにおよぶ鼉太鼓(だだいこ)一式を提供。美しい装飾と響きのある音で観客を魅了しました。

1950年、浅草神社の例大祭「三社祭」で使用される本社神輿を手がけ、1996年にはその大修復も担いました。

『宮本卯之助商店』がプロデュースする和楽器エンターテインメントプロジェクト「いやさかプロジェクト」の公演の様子。祭りや伝統芸能に込められてきた日本人の価値観を、広く発信する活動の一環です。

買う、試す、学ぶ。太鼓と伝統文化を体感できる西浅草店

『宮本卯之助商店』が手がけるプロダクトを、より広く一般にひらく場として設けられたのが西浅草店です。1階は太鼓を叩く際に使うバチや縦笛、お面、オリジナル雑貨などを扱うショップ、2階は大きな太鼓を試奏、購入できるショールーム、4階は世界各地の貴重な太鼓を集めた世界初の太鼓ミュージアム「太皷館」。太鼓や神輿を“特別なもの”として遠くから眺めるのではなく、間近で見て触れて、音を聴いて、その魅力にもっと親しんでもらいたい。西浅草店は、そんな思いをかたちにした発信拠点です。

人通りの多い国際通り沿いに建つ西浅草店。東京観光で外せない浅草寺とかっぱ橋道具街の中間に位置しているので、海外からの観光客も後を絶ちません。

1階には太鼓のバチや縦笛、お面、鈴、オリジナル雑貨など幅広い商品が並びます。

2階に上がると、広々とした空間に大小さまざまな太鼓がずらり。海外発送にも対応しているため、大きな太鼓を購入して帰る海外客も多いそう。

スタッフに声をかければ、気になる太鼓を実際に試奏することもできます。

4階には、世界各地から集めた約800点の太鼓を展示する「太皷館」が広がります。入場料は大人500円、小学生150円。

1階には太鼓の素材に使われる杉の香りを生かしたアロマオイルなど、日常で使える雑貨類も充実。日本文化のエッセンスを感じるお土産を探すのにぴったりです。

祭囃子で使われる篠笛のコーナー。実際の重さや音色を手に取りながら確かめられます。

店に入ってすぐの場所には大きな神輿が展示されています。

金色に輝く鳳凰をはじめ、細部にまで宿る彫金の技術を見ることができます。

浅草の工房で受け継がれる、和太鼓づくりの技

『宮本卯之助商店』では、西浅草店から20分ほど歩いた場所にある本社工房で、職人たちが手仕事でものづくりを行っています。太鼓の胴を削る「削職(けずりしょく)」、皮を張る「張職(はりしょく)」のほか、「漆塗職(うるしぬりしょく)」「神輿職(みこししょく)」「彫金職(ちょうきんしょく)」など、さまざまな職種と工程があります。

 

太鼓の胴に使われるのは、樹齢100年以上の大木。荒く整形したあとに、まずは保管庫で5年ほどじっくり乾燥させ、木の内部に残る水分を徐々に抜いていきます。その後、機械の旋盤で大まかな形に削られたのちに、手作業による削りの工程へ。「鉋(かんな)」と呼ばれる工具を使って丸みのある胴を仕上げていきます。

太鼓の胴を削る「削職(けずりしょく)」の作業の様子。胴を横に倒した状態で「鉋(かんな)かけ」をおこなっていきます。

職人が胴に鉋を押し当てながら、上下に何往復もさせて削っていきます。

鉋の刃は平らな形状になっています。曲面にアーチ状の刃を滑らせると、刃が当たる部分と当たらない部分が生まれ、均一に削ることができないためです。

「鉋かけ」の前、機械で荒削りされた状態の胴。表面は波打ち、ざらざらとしています。

職人が鉋で削った胴は驚くほどなめらか。表面をつるつるに仕上げることで木に水分が染み込みにくくなり、太鼓の耐久性を高めることにつながるんだそう。

削り終えた胴には「砥の粉(とのこ)」を塗って木地を整え、金茶色に着色します。他社ではこの上からウレタン塗装を施すことも多いそうですが、『宮本卯之助商店』では天然塗料のラックニスを重ね、木の呼吸を妨げずに艶と耐久性を生み出しています。

 

削りあげた胴に「砥の粉」とラックニスを塗り、乾かした状態。全体に艶が出て、美しい木目が際立ちます。

次に、完成した胴に皮を張る「皮張り」の工程へ。専用の器具に胴を据えたら、乾燥させて固くなった牛皮をのせます。皮のふちを巻いてつくった「縁(えん)」と呼ばれる部分に金属の棒を通し、紐をかけて器具に固定。「カケヤ」と呼ばれる木槌と樫材を使い「縁」の部分を打って、張力をかけていきます。

胴を専用の器具に設置し、「縁」と呼ばれる耳に金棒を通したら、紐をくくりつけて体重をかけながら下方向へ引っ張っていきます。

ただ引っ張るだけでは皮が切れてしまうため、布の上から木槌で叩き、繊維を伸ばす工程も必要です。張る、伸ばす、また張る。その作業を交互に繰り返しながら、実際に音を鳴らして張り具合を確かめ、叩く場所によって音にばらつきが出ないよう調律。そうして音が決まったところで、最後に鋲を打って固定します。

 

太鼓に張る牛皮。端の丸まった部分は「縁」と呼ばれ、皮が伸びやすい組太鼓では、締め直しが効くように切らずに残しておく「縁つき」という仕様が好まれます。

張った皮に布をかぶせて、上から木槌で叩くことで皮の繊維を伸ばしていきます。

皮を張り終えたら、「ケヒキ」という道具で鋲を打つためのガイド線を引いていきます。

鋲は鉛製。太鼓の大きさによって使用するサイズも変わります。

職人が慣れた手つきで、テンポよく鋲を打ち込んでいきます。15分足らずで140個以上の鋲が打たれます。

『宮本卯之助商店』の太鼓の皮が黄みがかって見えるのは、原料となる牛皮の毛を抜く際に使う米ぬか由来の色。化学薬品を使うより皮へのダメージが少なく、適度に油分が残ることで、響きも良くなります。

神社に納める太鼓は余韻の残る低めの音に、舞台で演奏される組太鼓は抜けの良い高い音に仕上げるなど、求められる音はさまざま。音への繊細な感覚がものを言うのが、この「張り」の作業です。また、太鼓は使っていくうちに皮が伸びて音が下がるため、納品時にはあえて理想より一段階ほど高い音に調整しておくのだとか。使い込まれていく先まで見越して仕上げるのが、職人の仕事です。

 

若い職人たちへ受け継がれる、ものづくりの考え方

現在、日本では伝統工芸に従事する職人の数が大きく減少しています。そんな中で『宮本卯之助商店』には、60代から18歳まで、幅広い世代の職人が20人ほど在籍しています。大切にしているのは、職人たちに「なぜそれを作るのか」「なぜこの作り方をするのか」をきちんと伝えることだといいます。工程の意味を理解することで、作業の精度が高まるだけでなく、技術を応用して新しいプロダクトへとつなげるという発想も生まれます。

工房の廊下には修理を待つ太鼓や職人たちの道具が並んでいます。

工房では、若手職人がひとつひとつの工程の意味を丁寧に説明してくれました。太鼓づくりは、木を乾かし、削り、皮を張り、音を整えるまで、長い時間と多くの手仕事を重ねて完成します。『宮本卯之助商店』は単なるモノを買う場所ではなく、現代へ受け継がれるものづくりの技術に触れる場所でもあるのです。

 

伝統技術から生まれた暮らしのためのプロダクト

『宮本卯之助商店』では、伝統的な道具だけでなく、これまで培ってきた技術やものづくりの精神を、現代の暮らしの中で楽しめるかたちへと広げる試みも行っています。

西浅草店にならぶのは、職人の手仕事や日本の伝統技術を、日常にとりいれやすい形におとしこんだプロダクト。確かな技術と素材に支えられた“本物”の日本文化に触れられるのもこのお店ならではの魅力です。

 

2024年にスタートしたオリジナルブランド「うのみせ」では、「日本の伝統を浅草から世界の日常へ」というコンセプトのもと、日本各地のつくり手と協業し、現代の生活空間に自然と溶け込む日用品や雑貨を提案。他店への卸売はせず、一部を除いてオンライン販売もしていないため、“この店でしか買えない”浅草土産として展開しています。

日本産アウターTシャツの原点とも言われる『久米繊維工業』と「うのみせ」のコラボTシャツ。背面は「宮本」の漢字の上に、昭和時代に『宮本卯之助商店』のカタログで使われていた神輿と太鼓の版画を重ねたデザインになっています。7,810円。

太鼓の胴がなく皮のみを張る「団扇太鼓(うちわたいこ)」と呼ばれる太鼓を小さくし、日本古来からある子どもの玩具「でんでん太鼓」に落とし込んだもの。9,900円

乾燥の過程で割れや歪みが生じ、太鼓としては製品化できなくなった胴材を新たな価値へとつなぐプロジェクト「The Curve」。「The Curve」のプロダクトは受注生産。写真はフランスのデザイナー・PIERRE CHARRIÉが手がけたスツールで、太鼓の削りと同じ技術で職人が手鉋で仕上げた表面は、滑らかで撥水性に優れています。

直径15cm程度の玩具太鼓。本物の長胴太鼓と同じ工程で作られており、小さなサイズながら本格的な響きが楽しめます。子供への贈り物にはもちろん、インテリアとして飾っても愛らしい一品。21,780円〜。

Photo: Hiroyuki Takenouchi

この記事の内容は2026年06月16日(公開時)の情報です