2026.06.16
東京の祭りと伝統芸能を支えてきた老舗の太鼓店
1861年に創業し、和太鼓や神輿など、東京の祭りや伝統芸能に欠かせない道具を手がけてきた『宮本卯之助商店』。浅草にある工房では、職人たちが木を削り、皮を張り、今も手作業でものづくりを受け継いでいます。西浅草店には、太鼓や神輿はもちろん、伝統技術を生かしたオリジナルの日用品や雑貨など、日本文化を現代の暮らしの中で楽しめるプロダクトも充実しています。
「和太鼓」は、日本の祭りや神社仏閣の儀式、歌舞伎や能などの伝統芸能に欠かせない楽器です。その力強い音色は場の空気を一変させ、人々の気持ちを盛り上げたり、ときには厳かな緊張感をもたらしたりしてきました。ひと口に「和太鼓」といっても、その種類はさまざま。体に響く芯のある音を出す「長胴太鼓(ながどうだいこ)」、甲高く突き抜けるような高音が特徴の「締太鼓」、軽量で踊りを入れたパフォーマンスにも使用される「桶胴太鼓(おけどうだいこ)」など、用途や演奏スタイルによって使い分けられてきました。
『宮本卯之助商店』ではこのような多種多様な和太鼓をはじめ、神輿や笛など、日本の祭事や伝統芸能に欠かせない道具を手がけてきました。1861年に茨城県で創業し、1893年に浅草へ。以来130年以上にわたり、宮内庁や歌舞伎座、国立劇場、浅草神社、明治神宮などにも太鼓や神輿を納め、東京の祭事と伝統芸能を支えてきました。
『宮本卯之助商店』がプロデュースする和楽器エンターテインメントプロジェクト「いやさかプロジェクト」の公演の様子。祭りや伝統芸能に込められてきた日本人の価値観を、広く発信する活動の一環です。
『宮本卯之助商店』が手がけるプロダクトを、より広く一般にひらく場として設けられたのが西浅草店です。1階は太鼓を叩く際に使うバチや縦笛、お面、オリジナル雑貨などを扱うショップ、2階は大きな太鼓を試奏、購入できるショールーム、4階は世界各地の貴重な太鼓を集めた世界初の太鼓ミュージアム「太皷館」。太鼓や神輿を“特別なもの”として遠くから眺めるのではなく、間近で見て触れて、音を聴いて、その魅力にもっと親しんでもらいたい。西浅草店は、そんな思いをかたちにした発信拠点です。
人通りの多い国際通り沿いに建つ西浅草店。東京観光で外せない浅草寺とかっぱ橋道具街の中間に位置しているので、海外からの観光客も後を絶ちません。
『宮本卯之助商店』では、西浅草店から20分ほど歩いた場所にある本社工房で、職人たちが手仕事でものづくりを行っています。太鼓の胴を削る「削職(けずりしょく)」、皮を張る「張職(はりしょく)」のほか、「漆塗職(うるしぬりしょく)」「神輿職(みこししょく)」「彫金職(ちょうきんしょく)」など、さまざまな職種と工程があります。
太鼓の胴に使われるのは、樹齢100年以上の大木。荒く整形したあとに、まずは保管庫で5年ほどじっくり乾燥させ、木の内部に残る水分を徐々に抜いていきます。その後、機械の旋盤で大まかな形に削られたのちに、手作業による削りの工程へ。「鉋(かんな)」と呼ばれる工具を使って丸みのある胴を仕上げていきます。
太鼓の胴を削る「削職(けずりしょく)」の作業の様子。胴を横に倒した状態で「鉋(かんな)かけ」をおこなっていきます。
削り終えた胴には「砥の粉(とのこ)」を塗って木地を整え、金茶色に着色します。他社ではこの上からウレタン塗装を施すことも多いそうですが、『宮本卯之助商店』では天然塗料のラックニスを重ね、木の呼吸を妨げずに艶と耐久性を生み出しています。
削りあげた胴に「砥の粉」とラックニスを塗り、乾かした状態。全体に艶が出て、美しい木目が際立ちます。
次に、完成した胴に皮を張る「皮張り」の工程へ。専用の器具に胴を据えたら、乾燥させて固くなった牛皮をのせます。皮のふちを巻いてつくった「縁(えん)」と呼ばれる部分に金属の棒を通し、紐をかけて器具に固定。「カケヤ」と呼ばれる木槌と樫材を使い「縁」の部分を打って、張力をかけていきます。
胴を専用の器具に設置し、「縁」と呼ばれる耳に金棒を通したら、紐をくくりつけて体重をかけながら下方向へ引っ張っていきます。
ただ引っ張るだけでは皮が切れてしまうため、布の上から木槌で叩き、繊維を伸ばす工程も必要です。張る、伸ばす、また張る。その作業を交互に繰り返しながら、実際に音を鳴らして張り具合を確かめ、叩く場所によって音にばらつきが出ないよう調律。そうして音が決まったところで、最後に鋲を打って固定します。
神社に納める太鼓は余韻の残る低めの音に、舞台で演奏される組太鼓は抜けの良い高い音に仕上げるなど、求められる音はさまざま。音への繊細な感覚がものを言うのが、この「張り」の作業です。また、太鼓は使っていくうちに皮が伸びて音が下がるため、納品時にはあえて理想より一段階ほど高い音に調整しておくのだとか。使い込まれていく先まで見越して仕上げるのが、職人の仕事です。
現在、日本では伝統工芸に従事する職人の数が大きく減少しています。そんな中で『宮本卯之助商店』には、60代から18歳まで、幅広い世代の職人が20人ほど在籍しています。大切にしているのは、職人たちに「なぜそれを作るのか」「なぜこの作り方をするのか」をきちんと伝えることだといいます。工程の意味を理解することで、作業の精度が高まるだけでなく、技術を応用して新しいプロダクトへとつなげるという発想も生まれます。
工房の廊下には修理を待つ太鼓や職人たちの道具が並んでいます。
工房では、若手職人がひとつひとつの工程の意味を丁寧に説明してくれました。太鼓づくりは、木を乾かし、削り、皮を張り、音を整えるまで、長い時間と多くの手仕事を重ねて完成します。『宮本卯之助商店』は単なるモノを買う場所ではなく、現代へ受け継がれるものづくりの技術に触れる場所でもあるのです。
『宮本卯之助商店』では、伝統的な道具だけでなく、これまで培ってきた技術やものづくりの精神を、現代の暮らしの中で楽しめるかたちへと広げる試みも行っています。
西浅草店にならぶのは、職人の手仕事や日本の伝統技術を、日常にとりいれやすい形におとしこんだプロダクト。確かな技術と素材に支えられた“本物”の日本文化に触れられるのもこのお店ならではの魅力です。
2024年にスタートしたオリジナルブランド「うのみせ」では、「日本の伝統を浅草から世界の日常へ」というコンセプトのもと、日本各地のつくり手と協業し、現代の生活空間に自然と溶け込む日用品や雑貨を提案。他店への卸売はせず、一部を除いてオンライン販売もしていないため、“この店でしか買えない”浅草土産として展開しています。
乾燥の過程で割れや歪みが生じ、太鼓としては製品化できなくなった胴材を新たな価値へとつなぐプロジェクト「The Curve」。「The Curve」のプロダクトは受注生産。写真はフランスのデザイナー・PIERRE CHARRIÉが手がけたスツールで、太鼓の削りと同じ技術で職人が手鉋で仕上げた表面は、滑らかで撥水性に優れています。
直径15cm程度の玩具太鼓。本物の長胴太鼓と同じ工程で作られており、小さなサイズながら本格的な響きが楽しめます。子供への贈り物にはもちろん、インテリアとして飾っても愛らしい一品。21,780円〜。
この記事の内容は2026年06月16日(公開時)の情報です






