名物はカツ丼! 100年以上続く日本橋人形町の老舗洋食店

小春軒

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『小春軒』は、1912年創業の日本橋人形町を代表する老舗洋食店です。名物の「カツ丼」は、ごはんの上にカツ、目玉焼き、野菜がそれぞれに盛られた一品で、一般的な“卵でとじる”カツ丼とはひと味違います。100年以上にわたって愛されている老舗でありながら、“気どらず美味く”をモットーに掲げる、老舗の風格と親しみやすさをあわせ持つ洋食店です。

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記憶をたどって蘇った、初代考案のカツ丼の味

江戸時代、商業の中心地となった日本橋は、100年を超える老舗が今も多く残る街です。『小春軒』もその一店として、1912年の創業以来、近隣で働くサラリーマンや地元客に長く親しまれてきました。名物は、「小春軒特製カツ丼」。カツ丼とは、日本発祥の料理で、ごはんの上に卵でとじたカツを乗せたものが一般的です。しかし、『小春軒』のカツ丼は、ごはんの上に、カツ、目玉焼き、野菜がそれぞれ盛られており、よく知られるカツ丼とはひと味違います。

「小春軒特製カツ丼」は、野菜と目玉焼きの下に、ひと口サイズのカツが6個も乗っています。

お客さんの半数が注文するという不動の人気メニュー。「小春軒特製カツ丼」しじみ汁付き。1,500円

このカツ丼を考案したのは、『小春軒』の初代です。ところが、戦時中に店を一時休業してから長い間メニューから姿を消していました。再びこのカツ丼がよみがえったのは今から30年ほど前。4代目の小島祐二さんが修業先から戻ってきたときでした。当時、厨房を切り盛りしていたのは、3代目である父・幹男さんひとりでしたが、祐二さんが加わったことで、調理を分担できるようになりました。手のかかるカツ丼は、忙しい時間帯にひとりで仕上げることは難しかったため、このタイミングで復活が決まったのです。初代がつくったカツ丼を唯一食べたことがある幹男さんの記憶だけを頼りに試作を重ね、約1か月かけて完成させたそうです。

人形町通りからほど近い場所にある『小春軒』。老舗らしい落ち着いた佇まいで、店名が書かれた白い暖簾が目印です。

店内は約20席のこじんまりとした空間ながら、居心地の良い雰囲気。ランチタイムはとくに混雑するため、相席になることもあります。

調理している様子を間近に眺められる、厨房前のカウンター席もあります。

4代目の祐二さんは、19歳から修業先のレストランで10年ほど経験を積んだのちに、小春軒の厨房に30年以上立ち続けています。

カツ丼を復活させた、3代目の幹男さんと妻の絹子さんの写真が飾られています。絹子さんはホールの手伝いをしており、お客さんから親しまれていたそう。

熟練の見極めから生まれる唯一無二のカツ丼

「小春軒特製カツ丼」のおいしさを支えているのは、カツを揚げる、野菜を煮る、目玉焼きを半熟で仕上げるという、それぞれの工程を絶妙なタイミングで揃え、ひとつの皿の上にまとめる職人技です。すべてを最良のタイミングで仕上げるためには、長年の経験に裏打ちされた見極めと手際の良い仕事が欠かせません。小春軒の厨房では、4代目の祐二さんと息子の祐太さんが並んで立ち、互いの動きを見ながら調理を進めています。その見事な連携が、無駄のない段取りと手際の良さにつながっているのです。

「小春軒特製カツ丼」の味の要となるのは、「割下」と呼ばれる甘辛い調味液。ブイヨン、砂糖、みりん、醤油、デミグラスソースを合わせたもので、コクがありながらも、さっぱりとした甘辛い味わいが特徴です。

さらに印象的なのが、一般的なカツ丼のように卵でとじるのではなく、半熟の目玉焼きをのせていること。これは、初代がこの一品を考案した当時、卵が高価で貴重な食材だったから。丸ごと1つ使っていることがひと目で分かるようにしたのだそうです。ごはんの上にカツ、半熟の目玉焼き、割り下がしみた野菜がひと皿で重なり合うことで、ほかにはない小春軒ならではのカツ丼に仕上がっています。

最初に取り掛かるのは、カツに添える野菜です。たまねぎ、ピーマン、下茹でしたにんじんとじゃがいもに「割り下」と呼ばれる、甘辛い調味液が染み込むよう、じっくり煮ていきます。

野菜を煮ている間に、カツを揚げます。使用しているのは国産ロース肉。脂身を取り除いてひと口大にしています。脂身が少ないほうが、カツ丼全体のバランスが良くなるのだそう。

カツは、比較的低めの温度の油でじっくりと揚げ、衣がきつね色になってきた頃合いで引き上げます。「測ったことないけど、大体4分くらいかな」と祐二さん。熟練の感覚が垣間見えます。

野菜を煮ている割り下にカツを10秒ほどくぐらせます。割り下の風味をほどよくまといながらも、クリスピーな食感がしっかり残るのだとか。

ごはんにカツを並べます。カツがまとった割り下がごはんに染みていくのもポイント。

卵はたっぷりの油を引いてじっくり焼くことで、黄身はとろりとした半熟のまま、白身の下にはほどよい焼き目がつく程度に仕上がります。

黄身が崩れないようにすばやく丁寧に乗せます。初代がメニューを考案した時代は、卵は高価だったことから、水で薄めた卵でとじる店もあったそう。

割り下で煮た野菜を黄身のまわりに乗せて完成です。

半熟の目玉焼きを割ると、とろりとした黄身があふれ出てきます。

カツに黄身を絡めて味わってみてください。

家族で守り続けてきた老舗の味と気どらない姿勢

『小春軒』は、代々家族で暖簾を守り続けてきた洋食店です。店のモットーは“気どらず美味く”。これは3代目・幹男さんが考案したものだそう。

戦前、日本では洋食はまだ特別なもので、洋食店にも高級なイメージがあり、誰もが気軽に入れる場所ではありませんでした。けれど戦後になると、洋食がだんだんと身近な存在になり、洋食店も増えていきます。そうした時代の変化を受け、3代目の幹男さんが掲げたのが「もっと気軽に立ち寄れる店でありたい」という思い。その思いを表した言葉が「気どらず美味く」だったのです。

“気どらず美味く”のモットーとともに店の歴史が書かれた額縁が店内に飾られています。

4代目の祐二さんは、「1日1日を大切に、目の前にいるお客さんのためにひたすら頑張ってきました。店も、そうしているうちに100年を超えていました(笑)」と話します。店の根底となる“気どらず美味く”という姿勢は、『小春軒』の味と同様に、家族のあいだで受け継がれてきました。代々、親の働く姿を子が見て学び、また次の世代へ。そんな積み重ねこそ、『小春軒』が今も日本橋の日常をささえる洋食店であり続けてている理由です。

いまは、4代目・祐二さん(左)と5代目を継ぐ予定の祐太さん(右)のふたりで厨房に立っています。「ふたりで手の足りないところをカバーしながら動いています。たまに憎たらしいことも言ってきますけどね。親子ならではの連携がとれているんじゃないかな」と笑って話す祐二さん。

カツ丼の次に人気だというメニューの特製盛合せ。焼き物2種類(イカ、カジキマグロのバター焼き)と揚げ物5種類(コロッケ、エビフライ、ホタテ、白身魚、ねぎ)が盛られたボリュームのあるメニュー。1,800円

揚げ物以外に人気なのがハンバーグ。デミグラスソースで煮込む際、時間をかけてじっくり火を通していくそう。ふっくらとしていて、ジューシーな一品です。1,300円

ハンバーグにも半熟の目玉焼きが上に乗っています。

Photo: Miho Noro

この記事の内容は2026年05月21日(公開時)の情報です