玩具の枠を超え、世界的なアート・ピースとして注目される「ソフビ」。そのシーンをけん引するメディコム・トイの代表・赤司竜彦氏に、ソフビ制作の歩みや、アートとの接点、そして今後の展望についてお聞きしました。そこから見えてきたのは、ソフビへの熱量と、作り手たちへの深い敬意でした。
メディコム・トイがソフビ制作に乗り出したのは、会社設立当初に遡ります。様々なアクションフィギュアやアートトイを手がける中、赤司社長は自らソフビ工場にも足を運び、成型や彩色といった知見を深めていきます。
空想特撮シリーズ「カネゴン」TVフィルム版(『ウルトラQ』より) メディコム・トイ初期の本格的なソフビシリーズ。 ©️ 円谷プロ
2000年代に入りソフビ・フィギュアの収集が大人のホビーとなる中で、メディコム・トイは2011年、<東映レトロソフビコレクション>というシリーズを立ち上げます。『仮面ライダー』(1971年)に代表される、東映特撮ヒーロー番組に登場した何百何千ものヒーローや怪人を、スタンダード・サイズのソフビとして商品化する壮大な試みです。開始以来、膨大なラインナップを誇るこのプロジェクトの裏側には、赤司社長の並々ならぬ執念と、少し不思議なきっかけがありました。
「嘘みたいな話ですが、『人造人間キカイダー』(1972年)に登場した敵ロボット『グレイサイキング』が夢の中に出てきたのが始まりなんです。なぜ当時、スタンダードサイズのグレイサイキングが発売されなかったんだろう、という思いが夢に現れて。すぐに原型師さんに連絡して動き出しました。まさに夢のお告げです」
東映レトロソフビコレクション「グレイサイキング」(『人造人間キカイダー』より) ©️ 石森プロ・東映
「2011年のシリーズ開始当時は、東映の特撮番組の怪人や敵ロボットたちは、過去に商品化されていないものがとても多かった。ここをきちんと補完したいな、と思ったんです。東映さんには「本気でやるので、10年以上は続けます」と宣言して許可をいただきました」
有言実行。10年を優に超えて続くこのシリーズは、既に数百体もの作品を生み出し、今や国内の熱心なコレクターだけでなく、海外のファンをも魅了しています。
東映レトロソフビコレクション「ドクガンダ―」(『仮面ライダー』より)©️ 石森プロ・東映
東映レトロソフビコレクション「仮面ライダー旧1号」(『仮面ライダー』より)©️ 石森プロ・東映
近年はソフビ人気が高まった結果、一部のアーティストが作るソフビはオークションで高値がつき、ギャラリーに並ぶアートピースとしての地位を確立しています。
「実は、インディーズ・ソフビの台頭とBE@RBRICKなどのアート・トイのブームは同じ2000年代に起きていて、時期としてはかなり重なっていました。ただ、例えば我々が作ったアート・トイであるKAWSのフィギュアも、素材としてはソフビですが、当時はまだソフビ・カルチャーの文脈では語られていませんでした。それが2010年代以降、急速にアート・トイとソフビの距離が縮まったんです」
「あるギャラリストから言われて納得したのですが、アートピースの定義には“作品が壊れないこと”という条件があるらしいんです。ブロンズ像は千年経っても朽ちないからアートになりました。ソフビも当初は耐用年数が未知数でしたが、誕生から60年が経ち、マルサンやブルマァクの製品が今なお健在であることが、その耐久性を証明しました。
それによってギャラリー側が“ソフビはアート・ピースとして認定していい”と価値観を転換させた。この実証が、アートとソフビを近づけたのだと思います。私たちも多くのアーティストとソフビでコラボさせていただいています」
JAM(JUMBO ARTIST MONSTERS)「ランジアス」。T9Gの代表作を全高約60㎝の巨大サイズで制作。©️ T9G
アートとソフビの「接点」を象徴するのが、過激な作風で知られるソフビ・アーティスト「NAGNAGNAG(ナグナグナグ)」とのコラボレーションでした。
「NAGNAGNAGからは『スマートな印象のメディコム・トイの中に、俺みたいなのがいるのは面白いだろ」と言われました。僕らの関係は、例えるならヴァージン・レコードとセックス・ピストルズのようなものでした(笑)。
彼は造形師というよりは、稀代のプロデューサーでした。私の発想の枠を飛び越えた無理難題を、いつもバーンと投げてくる。彼のアイデアをどうやって現実に形にしてあげようかと試行錯誤するのは、本当に面白い仕事でした。彼が急逝したときは本当に驚きましたが、彼とのプロジェクトこそが、ソフビとアートを決定的に繋いだ瞬間の一つだったのかもしれません」
NAGNAGNAGの遺志を継ぐグループ「NEW ART GUILD」による作品 「THE JOKER」(『Joker: Folie à Deux』より)。JOKER FOLIE A DEUX and all related characters and elements ©︎ & ™ DC and Warner Bros.Entertainment Inc. (s26)
ソフビ文化の裾野を劇的に広げたのが、500円のカプセルトイでアーティスト作品を販売する『VAG(Vinyl Artist Gacha)』。生産数が限られ高額になりやすい作家によるソフビを、安価で手に取りやすい形態に落とし込んだ小型ソフビのシリーズです。このプロジェクトはSNSの黎明期である2014年に誕生しました。
VAGシリーズの数々
「VAGを開始した当初は『さまざまなアーティストを年に何回も集められるか?』『本当に売れるか?』と、不安もありました。ダメだったら辞めればいい、そんな覚悟でしたね。ちょうどVAGが始まった時期は、SNSの浸透とシンクロしていました。それまではコアな商品を売るには雑誌メディアが必要でしたが、SNSが普及すれば作家自身が強力なメディアになる。独自のコミュニティを持つ彼らが発信すれば、それがそのまま宣伝になる、と考えたのです。
サンガッツ本舗など、日本のアーティストがいろいろな国のイベントに参加しファンをどんどん獲得してきており、VAGの市場も国際化しています。VAGを通して海外まで知名度が広がったアーティストもたくさんいます。
「今ではVAGがソフビ・コレクターへの入門編のような役割を果たしています。マーケットに現れた新しい才能をいかにフックアップできるか、それが私自身のタスクだと思っています。ひなたかほりさんやGYAROMIさんのように、ここから知名度が広がる作家さんも多く、非常に良い循環が生まれています」
メディコム・トイは昨年、ソフビの自社工場「カナマチファクトリー」を設立しました。
「設立のきっかけは、切実なリソース不足です。外部工場では成型までに数ヶ月かかり、『今これがやりたい」というスピードに間に合わない。自社工場であれば金型を持ち込んですぐに成型が上がり、1ヶ月以内には形になります』
ここは単なる生産拠点ではありません。赤司社長が「ラボ」と呼ぶその場所では、伝統的なローテク技術と最新の技術を融合させる試みが日々行われています。
「日本特有のローテクなソフビ製法である「スラッシュ成型」はもちろんのこと、「ローテーション成型」の機械を中国で特注して導入したり、ソフビへの植毛技術を復活させるために職人から古いミシンを譲り受けて研究したりしています。ソフビ製作の最大のボトルネックは金型と塗装マスク(彩色用の型)で、ローテクであるがゆえに後継者が少ないんです。だからそれを3D出力で金型を製作出来るかどうかの検討なども行っています。いかに今の技術で伝統を再現できるか、いわば『技術の逆引き』が今の私たちの大きなテーマです」
ファクトリーの中はさまざまな機器や原料で埋もれている
インタビューの締めくくりに、赤司社長は作家と向き合う際の自身のスタンスを、野球のポジションに例えて語ってくれました。
「私は作家と仕事をするとき、常に“キャッチャー”のつもりでいます。どんな無茶な変化球を投げられても、しっかりと受け止めて形にする。表現者がモヤモヤと思っているアイデアを、プロの技術でそのものズバリの形にする。そんなメーカーであり続けたいんです。
さらに、ソフビの作家を目指している人へも、心強いメッセージ。ソフビは、作家とファンの境界線が非常に曖昧なフィールド。大切なのは技術やセンス以上に「本当にやり遂げたい」という気持ちと覚悟だけだと、語ります。
「ソフビの世界に入るためのドアは、実はすぐ近くにあるんです。表現者を目指すという点では、あらゆる表現のフィールドの中でも、ソフビは最も入り口が広い場所の一つだと言えます。ただ、入りやすい分、そこから頭一つ抜け出すのは並大抵のことではありません。まさにレッドオーシャンと言える厳しさもあります。
その中で、もし自分の中に『これを表現したい』という確かなメソッドや方向性があるのなら、ぜひ臆せずに飛び込んでほしい。
一方で、『自分は集めるだけで十分だ』という方にとっても、今は世界中から多様なソフビが次々と生まれてくる、最高に面白い時代です。自分の感性にぴったりのものを見つけて、純粋にコレクションする楽しさを満喫していただけるなら、それが何よりだと思います」
ASM 「ジャンボサイズエヴァンゲリオン初号機」 & ASM 「碇シンジ」(『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』より)©️カラー
魔界玩「ファイヤーボールヘッド 喧嘩坊主 "Red warrior"」©️ 魔界玩
赤司社長の話を伺って強く感じたのは、ソフビという文化が持つ「時間軸の長さ」です。メディコム・トイのカナマチファクトリーは、ソフビが単なるブームで終わらず、文化として生き残るための、非常に重要な転換点になるでしょう。
伝統を愛でる視点と、変化を恐れない実験精神。その両方を「キャッチャー」として受け止める赤司社長。ソフビの熱狂はこれからも形を変えながら、世界を席巻し続けるに違いありません。
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株式会社メディコム・トイ代表取締役社長
東京都出身。1996年、株式会社メディコム・トイを設立。
「マーケティングに基づく商品開発ではなく自分たちが欲しいものを作る」をコンセプトに特撮、アニメ・コミック、映画等のキャラクターフィギュアを企画製造。2000年に自社オリジナルブロックタイプフィギュア「KUBRICK」、2001年にクマ型の「BE@RBRICK」を発表し、国内外のアーティスト、ブランド、企業とのコラボレーションを多彩に展開。他にもテキスタイルブランド「FABRICK®」やアパレル類を扱う 「MLE」など多岐にわたる事業を展開。現在、直営店舗は「MEDICOM TOY TOKYO」「東京スカイツリータウン・ソラマチ店」「MEDICOM TOY PLUS」「MEDICOM TOY NEXT」「MEDICOM TOY PLUS NAGOYA」「MEDICOM TOY WEST」の6店を展開。2026年4月には、韓国にギャラリーストア・カフェ「BE@RBRICK CONNECT」をオープン。












