日本が誇る音楽ジャンルである“アニソン”。古くは『鉄腕アトム』から、現在の『鬼滅の刃』に至るまで、時代とともに形を変えながら、日本のポップカルチャーを象徴する存在となってきました。そして今、世界同時にアニメ作品が見られるようになり、“アニメのための音楽”ではなく、“日本の音楽が世界とつながるための扉”になっているともいえます。世界共通語となった“アニソン”の「今」を、J-POP(日本のポップミュージック)との関係性に焦点をあてながら紐解きます。
“アニソン”は世界に誇る、日本のカルチャーのひとつ。その発展は、J-POP(日本のポップミュージック)の世界的なヒットとも密接に結びついています。そのJ-POPの視点から、“アニソン”の歴史から現在、そして未来までを、アニソンに詳しい音楽ライター・澄川龍一さんに解説してもらいました。
そもそも“アニソン”とは、テレビアニメのオープニングやエンディング、挿入歌など、アニメ作品にタイアップがついた楽曲のことでした。しかし、現在はそれだけでは括りきれなくなっているのだとか。
「“アニソン”を中心に活動するアニソン歌手や声優アーティストと呼ばれるアーティストの楽曲の多くは、アニメ作品のタイアップがついていなくとも、総じて“アニソン”と捉えられることもあります。また、ゲーム音楽として生まれた楽曲が、作品のアニメ化によって主題歌に転用されるケースも珍しくありません。アニソン=アニメ主題歌という前提はありつつ、今やアニソンは固有のカルチャーとして広く愛されています」
米津玄師の16枚目となるシングルは、劇場版『チェンソーマン レゼ篇』の主題歌『IRIS OUT』、そして宇多田ヒカルとコラボレーションした同作のエンディング・テーマ『JANE DOE』のダブルA面。Illustration by 米津玄師
また、アニソンはもはや“聴く”だけの音楽ではなく、“体験する”カルチャーへと進化。日本では『Animelo Summer Live』や『リスアニ!LIVE』などの大規模なアニソンイベントが毎年開催され、数万人を動員する熱狂が続いています。
そしてその熱は国境を越え、世界各地にも広がっています。
「ロサンゼルスで開催される『Anime Expo』やパリの『Japan Expo』といった大型アニメイベントをはじめ、中国の動画プラットフォームbilibiliが主催する『Macro Link』、東南アジア地域で開催される『Anime Festival Asia』など、“アニソン”のライブイベントは世界各地で開催されています。“アニソン”は国や言語を越えて共鳴する、世界共通のエンターテインメントとなっているんです」
日本における“アニソン”の原点は、1963年、『鉄腕アトム』の主題歌だと言われています。
「当時の“アニソン”は、あくまで子供向けアニメ番組の一要素であり、作品名や登場キャラクターを象徴するキャッチーなメ ロディと歌詞が中心。そこから1970年代には、水木一郎や堀江美都子など、専業の“アニソン歌手”がその世界を支えていくようになりました。
それが1980〜90年代にかけては、TM NETWORKやJUDY AND MARYなど、J-POPの世界で活躍するアーティストがアニメ主題 歌を担当するようになり、“アニソン”とポップスの境界は徐々に曖昧になっていきます」
↑“アニソン”の元祖と言われる『鉄腕アトム』の主題歌。1963年の放送当初は、まだ歌詞のないインストゥルメンタル曲でした。のちに日本の詩人・谷川俊太郎による歌詞がつき、少年合唱団が歌唱を担当しました。
↑1987年、当時のJ-POP界におけるヒットメーカー、小室哲哉が率いる音楽ユニットTM NETWORKの『Get Wild』が、アニメ『シティハンター』のエンディングテーマ曲に起用されます。
そして2000年代には、『NARUTO -ナルト-』『BLEACH』『銀魂』『鋼の錬金術師』など、人気少年漫画が続々とアニメ化。
「1980年代以降、若手のJ-POPアーティストによるアニメ主題歌がヒットを記録したことで、アニメのタイアップは新人アーティストにとっていわば売れるための“登竜門”となっていったのです。特に「週刊少年ジャンプ」連載のアニメにはエネルギッシュなバンドサウンドの楽曲が起用されることが多い印象があります」
↑2004年に発売されたASIAN KUNG-FU GENERATIONの『リライト』は、『鋼の錬金術師』のオープニングテーマ。2007年にはニューヨークでおこなわれた第1回『アメリカンアニメアワード』でベスト主題歌賞を受賞。
↑UVERworldのデビュー曲『D-tecnoLife』は、アニメ『BLEACH』のオープニングテーマに起用。彼らは2018年、『僕のヒーローアカデミア』のオープニングテーマ『ODD FUTURE』で海外からも注目を集めました。
↑TikTokで過去の楽曲がバズったことで人気が再熱し、Doja CatやCharli xcxなど海外アーティストからも支持されているTommy heavenly6。彼女の代表作のひとつ『pray』は、アニメ『銀魂』の初代オープニングテーマです。
↑2008年に『NARUTO-ナルト-疾風伝』のオープニングテーマに起用されたいきものがかりの『ブルーバード』は、全世界でストリーミング再生回数2億回越えを誇り、リリースから17年経った今でも根強い人気を誇ります。
そして2019年から2020年、アニメ界に大きな激震が走ります。アニメ『鬼滅の刃』シリーズの記録的な大ヒットです。
↑『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、日本では2020年10月16日に公開。テレビアニメ版の『竈門炭治郎 立志編』続編として描かれた作品。
2020年公開の『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」の日本国内での興行収入は404億円を突破し、日本歴代興行収入第1位を記録。作品とともに、テレビアニメ版、劇場版ともに主題歌を務めたLiSAの楽曲も同時に注目されることになります。
劇場版の主題歌『炎(ほむら)」は、CDシングルが発売初週で約6.7万枚を売り上げ、日本国内の権威ある音楽チャート「オリコン週間シングルランキング」で1位を獲得。配信・ストリーミングでも軒並み1位を独占し、リリースからわずか1か月で100万ダウンロードを突破します。同年、LiSAは日本音楽界最高の栄誉のひとつである「日本レコード大賞」を受賞。そして19年に引き続き、大晦日に放送される日本の国民的音楽番組「NHK紅白歌合戦」に出演します。
「2019年の「紅蓮華」(TVアニメ『鬼滅の刃』OPテーマ)と2020年の「炎」、この2曲の大ヒットは、日本国内においても、“アニソン”がアニメファンのための音楽ではなく、日本のポップカルチャーを象徴する存在として認知される、決定的な出来事でした」
そして『鬼滅の刃」現象は国内にとどまらず、世界各地でも巻き起こります。『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』は、台湾、香港、韓国、アメリカ、オーストラリア、中南米など数多くの国と地域で上映され、日本を含めた世界興行収入は約517億円を突破。日本映画として、そしてアニメ映画としても前例のない記録を打ち立てました。アメリカでは公開初週で北米興行収入ランキング2位を獲得し、日本アニメ映画として歴代最高の興行成績を収めています。
「このグローバルヒットの背景には、NetflixやCrunchyrollなどの動画配信プラットフォームの普及が大きく影響しています。かつて海外では、日本で放送されたアニメが遅れて放映されることが一般的でした。しかし現在は、配信サービスによって日本の最新アニメが海外でもほぼリアルタイムで視聴可能となり、世界中のファンが同じタイミングで熱狂を共有できるようになったのです」
それに伴い、主題歌にも世界的な注目が集まります。
「炎」はリリース後、Billboard Global 200チャートで8位を記録。また、YouTubeでは公式ミュージックビデオが1億回再生を突破するなど、国境を越えて支持を拡大させたのです。
「これもまた、SpotifyやApple Musicといった音楽サブスクリプションの普及により、海外のリスナーが輸入盤=日本の音盤を探す必要もなく、瞬時にアクセスできるようになったことが大きいでしょう。こうしたインフラ環境の整備が、“アニソン”を世界規模の音楽へと押し上げた大きな要因です」
『鬼滅の刃』をきっかけに、“アニソン”とJ-POPの関係性は新たな段階へと進化しました。 Official髭男dism、YOASOBI、Creepy Nuts、米津玄師など、J-POPを牽引するトップアーティストたちが次々とアニメ主題歌を手がけ、そのたびに国内外で爆発的ヒットを記録するようになります。
「最近では、アニメの映像をミュージックビデオとして公式に活用したり、アニメ放送と同時にデジタル配信を行ったりと、アニメと隣接したプロモーションが当たり前の手法になりました」
もはやアニメとのタイアップは、アーティストが世界に音楽を届けるための重要な戦略のひとつになっているのです。
↑テレビアニメ『マッシュル -MASHLE-』のオープニングテーマ『Bling-Bang-Bang-Born』。 中毒性の高い日本語ラップと、TikTokでのダンスチャレンジをきっかけに一大バズを起こしました。Billboard Global 200では最高8位にランクイン。
↑アニメ『推しの子』の主題歌『アイドル』は、Billboard Global 200で最高7位を記録。YouTubeでは驚異の5億回再生を超え。現在YOASOBIは、アジアやヨーロッパでワンマンライブを開催するなど世界的なアーティストとなりました。
とはいえ、こうした動向は突然生まれたものではありません。
これまで見てきたように、J-POPと“アニソン”の結びつきは、長い年月をかけて育まれてきました。アニメをきっかけにアーティストのファンになる人もいれば、その逆にアーティストのファンが作品を通してアニメの世界へ足を踏み入れることもある。J-POPとアニメは“アニソン”を通じて互いに影響を与え合いながら、ファンベースを広げてきました。
「今、最前線で活躍するアーティストの多くは、幼少期からアニメとともに育ち、自然に“アニソン”を聴いてきた世代。また米津玄師やAdoのようにインターネット発の音楽文化から登場したアーティストは、もともと“アニソン”的な構成や表現手法とも親和性が高いと言えます。そうしたアニメカルチャーに馴染んだ世代が、アニメを媒介に世界へハイクオリティな音楽を発信し、評価を得ているのはごく自然な流れなのです」
↑米津玄師の最新曲『IRIS OUT』では、2025年9月19日に日本で公開となった劇場版『チェンソーマン レゼ篇』の映像をMVに使用。映画は香港、シンガポール、フランス、アメリカなど世界各国での上映が決定しています。
澄川さんは、“アニソン”におけるJ-POPアーティストの活躍は今後しばらく続くだろうと言います。
そのうえで、次に来る“アニソン”のジャンルとして挙げたのが“ガールズバンドモノ”。
「“ガールズバンドモノ”というのは、バンド活動を題材にしたアニメ作品の中で、女の子のキャラクターたちが組んだバンドが出す音楽のことを指します。以前は声優が歌唱して、演奏はプロが担うというのがスタンダードでしたが、現在はその形も多様化しているんです」
“ガールズバンドモノ”の歴史は、2009年放送の『けいおん!』にまで遡ります。当時、深夜枠のアニメとしては異例の視聴率を記録した『けいおん!』。全国の高校に軽音部ブームが波及するほど、アニメの枠を超えて支持を集めた作品です。主人公たちが組んだ劇中バンド=放課後ティータイムによる音楽は、アニメのキャラクターが初めてチャート首位を獲得した『GO! GO! MANIAC』(TVアニメ『けいおん!!』OPテーマ)など、いずれもが日本国内のチャートで上位にランクインするほどの人気でした。
『けいおん!』に登場する平沢唯、秋山澪、田井中律、琴吹紬の4人からなる桜高軽音部。同作のエンディングテーマ『Don’t Say ‘Lazy’』は、高校生バンドがこぞってコピーした定番曲のひとつとなりました。©かきふらい・芳文社/桜高軽音部
そして2015年、アニメ界に“ガールズバンドモノ”というジャンルを定着させた『BanG Dream!(バンドリ!)』プロジェクトがスタート。楽器演奏ができる声優を集め、複数のリアルバンドを結成・活動させるという、ライブとアニメ、アプリゲームを地続きに展開するメディアミックス企画です。
『アイドルマスター』や『ラブライブ!』が“歌って踊る声優”の時代を築いたとすれば、『BanG Dream!』は“演奏する声優”という新しい概念を打ち立てた存在と言えるでしょう。
↑第2のリアルバンドとして生まれたRoseliaは、ダークでクールな世界観が特徴的。アニメシリーズでの人気を受け、2021年には彼女たちをメインに取り上げた劇場版も公開されました。
↑25年に放送されたアニメシリーズ『BanG Dream! Ave Mujica』では、ガールズメタルバンドとして結成されたAve Mujicaのメンバーをフィーチャー。7弦ギター、5弦ベースを使用した重厚感のある本格的なライブパフォーマンスも評価されています。
その後、2022年に一大ブームとなったのがアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』。作中バンド結束バンドのアルバムは2022年12月のリリース後、2023年オリコン・デジタルアルバム上半期で1位を獲得し、女性グループとしては史上初の快挙を成し遂げます。
「結束バンドは歌唱のみを声優がおこなうスタイルですが、邦楽のギターロックに近いサウンドが音楽ファンにも支持されていて、ROCK IN JAPAN FES.をはじめとした大型ロックフェスにも出演して、リアルな活躍の場を広げた存在です」
↑アニメの劇中歌『星座になれたら』は、アニメ『進撃の巨人』のエンディングテーマ『悪魔の子』で知られるヒグチアイが別名義で作詞をおこないました。
そして注目すべきは、2024年に開始したアニメ『ガールズバンドクライ』。まずオーディションで募ったメンバーによってリアルバンドが結成され、そこからアニメへ展開するという逆転の発想で話題を呼びました。
メインバンドとなるトゲナシトゲアリは、9月に日本武道館でのワンマンライブを成功させています。10月に公開された劇場版総集編 前編『ガールズバンドクライ青春狂走曲』も好調で、今後の展開にも期待ができる作品です。
↑『ガールズバンドクライ』の音楽プロデューサーを務める玉井健二氏は、YUKIの名盤アルバム『joy』や、アニメ『鬼滅の刃』遊郭編のオープニングテーマ『残響散歌』のプロデュースを手がけた実力派。
このように、“ガールズバンドモノ”はキャラクター、声優、アーティストが一体となって音楽を生み出す領域へと進化しています。形式もサウンドも多様化し、声優とは思えないハイクオリティな演奏が一般的となった今、ガールズバンドモノは、まさに“アニソン”の未来を映すジャンルと言えるでしょう。
“アニソン”は今、J-POPと完全に地続きの存在となり、世界中で聴かれる音楽へと変貌を遂げました。アニメを通じてアーティストの楽曲が広がり、同時にアニメ作品も音楽によって世界に届く。もはやアニソンは“アニメのための音楽”ではなく、“日本の音楽が世界とつながるための扉”になっているといえるでしょう。日本ならではの強みであるこのジャンルは、次世代の日本の音楽とカルチャーを牽引していくに違いありません。
音楽ライター。1978年生まれ。2002年にタワーレコード株式会社入社、主に洋楽CDシングルバイヤーに携わる。2007年からはフリーライターとしてアニメ音楽を中心にインタビュー、執筆活動を開始。2010年からはアニメ音楽誌『リスアニ!』の編集・執筆に関わり、2016年に編集長就任。現在はフリーの音楽ライターとしてアニメ音楽の評論、大学や専門学校での講義、音楽プロデュース、DJなど幅広く活動している。
澄川龍一さんの初の著書、『アニソン大全 〜「鉄腕アトム」から「鬼滅の刃」まで〜』(祥伝社)が11月4日に発売。澄川さんの視点でアニソンの歴史60年間あまりをつづった一冊になっています。
購入はこちらから↓
