世界へ踏み出す日本の青年マンガーー『ヤングマガジンUSA』の挑戦

多くの名作がアニメ化され、世界中で広く知られ愛されている日本の少年マンガ。その一方で今、“圧倒的にリアル”なテーマを描く日本の青年マンガへの関心が世界中で高まっています。そんななか、2025年8月、青年マンガの魅力をさらに世界に届けるべく生まれた『ヤングマガジンUSA』。「描きたい」作家が集まり、そして、読者が「読みたい」作品を選ぶ。世界に向け、実験的な試みをした編集部が目指したものとは……。

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45周年を迎える日本の青年マンガ誌がアメリカに上陸!

世界中で伝説となっているマンガ『AKIRA』や『攻殻機動隊』を産んだ、日本の青年マンガ誌の代表『週刊ヤングマガジン』。日本の大手出版社・講談社が発行しており、2025年に45周年を迎えた雑誌が、同年8月に北米で『ヤングマガジンUSA』をローンチしました。

ⒸKODANSHA

日本ならではの高品質な雑誌制作にこだわった紙媒体であえてつくられた『ヤングマガジンUSA』。表紙は、伝説的マンガ『攻殻機動隊』で知られる士郎正宗先生による描き下ろしです。

表紙は伝説的マンガ『攻殻機動隊』で知られる士郎正宗先生による描き下ろし。

ニューヨークで行われた日本のポップカルチャーの祭典『Anime NYC 2025』で、約2万5千部を無料配布。また、ニューヨークの『紀伊國屋書店』でも同様に無料配布しましたが、わずか数日で数千冊が瞬く間になくなったといいます。

『Anime NYC 2025』の会場に積み上げられた『ヤングマガジンUSA』。マンガ雑誌文化が根付いていない北米では、印刷や製本の方法も日本とは異なるため、すべて日本で行って輸送をしたそう。赤道を通過する際の温度変化や湿度にも耐えられるよう、細心の注意を払って行われた印刷や製本の技術、紙質は、世界的に見てもとても高水準だということです。

コンセプトは、徹底的にリアルな描写で生の感情を描く「UN-filtered MANGA」

『ヤングマガジン』は、なぜUSA版に挑戦したのか、そしてどんな成果を得たのか。『ヤングマガジンUSA』編集長の白木英美さん、編集部の北端琉人さん、国際ライツ事業部の星野 徹さんにお話を伺いました。

左から・編集部の北端さん、国際ライツ事業部の星野さん、編集長の白木さん。

『ヤングマガジンUSA』の作品は公募で集められています。「描きたい」と集まった作家の中から、選ばれて収録されたのは19作品。公募には有名無名問わず100件以上もの応募が集まり、最終的には予定よりもページ数が増えてしまったのだとか。読み切りではなく「第一話」として収録された作品たちは、読者投票により、人気TOP5に入るとその後の連載が決定するという、実験的な試みでもありました。

掲載作品『Still You』(西尾 上)の1シーン。ⒸKODANSHA

「アメリカは日本と違い、少年誌や青年誌のようなマンガ雑誌がないので、何かワンテーマを持って編纂したいとまず思いました。そこで、考えたコンセプトが“UN-filtered MANGA”です。海外に日本の青年マンガを紹介したいと思ったとき、青年マンガの魅力はなんだろうと振り返ると、圧倒的にリアルであることだと思ったんです。少年誌が“夢と冒険を描くもの”であるのに対し、青年誌は“現実と選択を描くもの“と言われることが多く、そういった人生の現実を、フィルターを通さず描こうという方針で、それを叶えているマンガを集めました」(白木さん)。

ジャンルはアメリカで人気のある「SF」「ダークファンタジー」「ホラー」「アイデンティティ系」の4つに絞られました。「アイデンティティ系」というジャンルはアメリカの多様性を意識したそもので、そもそも、『ヤングマガジンUSA』が誕生したきっかけは、この「アイデンティティ系」作品の北米での人気に気付かされたことだったそう。

2年ほど前、『ヤングマガジン』で作品を描いている学 慶人先生がアメリカのオハイオ州コロンバスの大学から招聘を受け、白木さんと星野さんも同行しました。当時、学先生が描かれていた『ボーイズ・ラン・ザ・ライオット』という作品は、トランスジェンダーの高校生のアイデンティティを描いたものでした。

学 慶人『ボーイズ・ラン・ザ・ライオット』(全4巻)。トランスジェンダーの男子高校生が、自分の性別を認めない学校の中でストリート系ファッションに興味を持ち、同様の境遇のシスジェンダーの転校生と出会い、自分たちのファッションブランドを立ち上げる。ⒸKODANSHA

「学先生のリアルな経験や感覚が“マンガ”という形にしっかりと落とし込まれた作品なのですが、実は日本市場では少し苦戦していたんです。でもアメリカでは、このテーマに本格的に向き合うマンガがまだ多くなかったこともあり、トランスジェンダーの読者からの強い支持のほか、アート系の学生たちからも大きな反響があり……。実際、日本を超える部数が売れているのですが、コロンバスで行ったサイン会にも本当に多くのファンが集まってくださり、なかには涙を流して喜んでくださるかたもいたりするほどでした。この歓迎に対して何か恩返しができないか、という話が出たのがきっかけで、手渡しができる紙の本にこだわるというアイデアもこのときに思いつきました」(星野さん)。

『ヤングマガジン』45周年という節目もあり、北米の読者に日本のマンガ誌の魅力を伝えたいという思いでプロジェクトを発足、1年以上の月日をかけて、ローンチに漕ぎ着いたのです。

編集長・白木さんも登場する『ヤングマガジンUSA』の北米への挑戦の様子は、YouTube『ヤンマガ日常ch』でも見ることができます。

人気投票TOP5で分かった、日本の青年マンガの強み

最終的に、人気投票は約28万票を集め、12月に上位5作品の連載が決定しました。実は、投票の結果は、まったく予想とは異なるものだったと、白木さんと北端さんは語ります。

「SFか、ダークファンタジーのジャンルの、日本の文化を知っている前提がなくても問題ない、架空世界の物語が首位になると予想していましたが、LGBTQの作品が1位に。北米の読者の多様性と深い興味に、日本のマンガの可能性を改めて感じました」(白木さん)。

「無料配布のほかに、電子書店でも同様に読まれていて、1位の作品はひとりの読者のXのポストがバズったり、読者の深いところに刺さっている感じがしました」(北端さん)。

第1位 『Still You』西尾 上  “あの日、なんの気なしにしたキスが僕らのすべてを変えた――。”幼馴染同士の関係を描いたBL作品。

第2位 『ゴッドマザー』 下川 林 魔窟と化した“横浜・中華街”が舞台。中国出身の新鋭作家が描く、新感覚ホラー。

第3位 『瀆神の騎士』金藤 澪 汚名を被り神の冒瀆者と呼ばれながらも、正義を貫いた騎士の物語を描く、歴史大河ファンタジー。

第4位 『魔力枯れのダークウルフ』板橋大祐 ある日魔力を失った、世界一の大魔術師。どん底から人生の楽しみ方を知っていく、至高のセカンドライフ・ファンタジー。

第5位 『帯化』OUGA 蔑まれた“魔女”と少女が世界を歩む、未踏のダークファンタジー。新鋭作家が描く、運命に抗う物語。

結果として分かったのは、マンガの読みやすさの重要性。

「最初は、圧倒的な画力や綿密に練られた複雑な設定が勝負を分けると考えていましたが、実際は、読者が求めていたのは「わかりやすさ」でした。今回、第一話のみの掲載ということで、SFやダークファンタジーのような難解なジャンルは、読者が少し入り込みづらかったかもしれません」(白木さん)。

そして「日本の青年マンガが世界から注目されている」という現実だったのです。

「日本のマンガの強みは「共感性(Empathy)」と「自分事として感じられる関連性(Relatability)」の2つだと思っています。いわゆるアメコミでは完璧なヒーローを描くことが多いのに対し、日本のマンガは主人公の弱さや葛藤、成長を等身大に描くことで、“自分事”と捉え共感できるのです。そして、より深いテーマや圧倒的にリアルな世界を描ける青年マンガが今、世界的に評価を受けつつあると思っています」(白木さん)。

投票で連載が決まったTOP5作品の英語版は、講談社のアプリ『K MANGA』で読むことができます。また、特に反響の多かった4作品が追加で連載されることも決まりました。

世界総クリエイター時代に『ヤングマガジンUSA』ができること

今回の結果で、さらに印象的だったのは読者の『参加したい』『一緒に作りたい』という熱い思いだった、と白木さんは言います。

「アメリカの読者の方々にとって、選ばれて翻訳された日本のコミックスだけが届く世界で、“自分たちが選べる”ことは初めてだったと思います。嬉しいという声がたくさん届きました。単なる消費者ではなくコンテンツ創造に主体的に関わりたいという姿勢と、青年マンガのニーズが見えたことに、私たちは大きな手応えを感じました」(白木さん)。

さらに今、世界中のクリエイターが日本のマンガ文化に触発され、自分たちの物語を描き始めているという潮流があります。現在、講談社がニューヨークで行っているポップアップイベント『KODANSHA HOUSE』でも、海外の作家さんが持ち込む作品を講談社の編集者たちが見るという『MOCHIKOMI』というコーナーが大変人気になっているそう。また『KODANSHA MANGA ACADEMY』というサイトもオープンし、世界中に向けて、どうやったらマンガ家になれるかを紹介し、世界中のマンガ家志望のクリエイターをサポートする活動もしています。

世界中のクリエイターとともに、新しいマンガの未来を創っていく『KODANSHA MANGA ACADEMY』。

世界中の人たちがマンガをどんどん描くようになると、もっともっと多様な世界を描いたマンガが増えていく。『ヤングマガジン USA』が目指すのは「そこから」なのです。

「誰でもマンガを描けるようになる時代が、これから間違いなく来ると思います。世界中、総クリエイター時代みたいなものがきたときに、“何で伝えたいか”というその手段にマンガが選ばれる環境をつくるのが僕らの役割だと思っています。そのために種を蒔き続けます」(白木さん)。

Photo : Shohei Kawatani