2026.07.27
古本のまち・神保町で長く愛される洋古書専門店
古本のまち・神保町で長く愛される『北澤書店』は、英米文学を中心に洋古書を扱う老舗書店。文学以外にも、哲学、思想、芸術、文化人類学など幅広いジャンルの洋古書が揃い、海外から訪れる人も多い一軒です。書斎をイメージしているという店内は、ダウンライトの柔らかな光、ふかふかの絨毯、アロマの香りに包まれた落ち着いた空間。美しい装丁の洋古書を空間演出として提案する『KITAZAWA DISPLAY BOOKS』の取り組みも行っています。
古書店が軒を連ねる神保町は、東京の中心にありながら、本の世界に迷い込んだような非日常感を味わえる街です。近年は海外からも注目を集めており、2025年には世界の都市情報を発信するメディア『Time Out』の「世界で最もクールな街」ランキングで1位に選ばれました。本の街でありながら、喫茶店、カレー、ギャラリーなど多様なカルチャーが重なるエリアとして評価されています。
そんな神保町で長く愛されている『北澤書店』は、英米文学を中心に洋古書を扱う、神保町でも珍しい古書店です。
明治35(1902)年、現店主の4代目・里佳さんの曽祖父である初代が創業。当時は日本文学を中心に扱っていました。その後、2代目が一時店を離れ、特技の英語を活かして働くなかで海外の思想に触れたことをきっかけに、外国語の書籍を積極的に取り入れるようになったそうです。現在はアメリカ、イギリスの文学作品を中心に、ロシア、フランス、イタリアなど各国の文学作品のほか、哲学、思想、言語学、芸術学、文化人類学など、幅広いジャンルの洋古書を揃えています。
また、『北澤書店』には海外でも見つけるのが難しくなった絶版本や初版本が、良い状態で並んでいます。それを目当てに海外から足を運ぶ人も多いのだそう。神保町にいながら、世界の言語で記された希少な洋古書に出会える一軒です。
上段は、カラフルな装丁も楽しい、英米の古典文学を収めた「Everyman’s Library」シリーズ。英米文学はこの店の中心的なジャンルで、一番人気でもあります。下段には西洋建築、美術に関する本が並びます。
現在のビルに改装される前の、平屋だった時代の『北澤書店』の写真が飾られています。日本文学を中心に扱っていた当時は、多くの大学生が訪れていたそう。店の長い歴史を伝える1枚です。
神保町の中でも珍しい洋古書専門店である『北澤書店』は、店内の空間づくりにも特別なこだわりがあります。店内はダウンライトの優しい光に照らされ、足音を和らげるふかふかの絨毯の上に、重厚感のある書棚が並んでいます。書棚では、大きさや厚みの異なる洋古書が、背表紙の面が揃うよう少し手前へ引き出し、丁寧に並べられています。
「ほとんどの書店は、すべての本が明るく見えるようなライティングをしていると思いますが、うちはダウンライトにしていて、書斎にいるような落ち着いた雰囲気を出しています。また、背表紙の面が揃うように並べるのは少し手間ではあるんですが、本をきれいに見せたくてやっています」と、4代目・里佳さん。
また、店内ではアロマが焚かれており、ほのかな香りが漂います。
「古書ならではの香りも好きなんですが、この店を記憶に残してほしいと思って、アロマを焚いています。並んでいる本にも香りが残るので、ページを開くたびにここを思い出してもらえるかなと思って」(里佳さん)。
五感に訴えかける空間づくりは好評で、“『北澤書店』で買った本だとすぐわかる”と、うれしい言葉をかけられることも多いそう。なかには、大切に読み継いだ本を “また『北澤書店』に並べてほしい”と持ち込む人も少なくないといいます。
ダウンライトの光で照らされることで、バーゲンセールの書棚も雰囲気があり、どの本も魅力的に見えます。
書棚を斜めから見ると、背表紙が少し引き出され、どんな大きさや厚さの本も丁寧に整えられて並べられていることがわかります。
貴重な書籍が保存されている店の一角は、だれかの書斎に紛れ込んだような、非日常を醸し出す空間になっています。
店内では、本の装丁や空間を撮影するのはOK。『北澤書店』の非日常な空間を、ぜひ思い出として残してほしいと里佳さん。
空間づくり以外にも、『北澤書店』には本とじっくり向き合って選べる工夫があります。それは1冊ごとの見返し部分に添えられた、4代目・里佳さんによる手書きのひと言タグ。その本のおすすめコメントや、手に取った人へのメッセージが、シンプルな英語で書かれており、タイトルや装丁だけではわからない本の魅力に気づかせてくれる、宝探しのような楽しさがあります。また、ひとつひとつ丁寧に書かれたメッセージから、手書きならではの温もりが伝わります。こうした細やかな心配りも『北澤書店』がファンをひきつける理由のひとつです。
本の見返し部分に貼ってある手書きのひと言タグのほかに、価格や書誌情報が記された値札ラベルも手書き。1冊1冊、丁寧に整えられ、店頭に並べられていることがわかります。
小口の部分まで金に装飾された洋書。あまり日本では見かけない装飾で、洋書ならではの存在。『Paradise Lost, illustrated by Gustave Doré (1984) /John Milton』25,795円
印象的な表紙は、上智大学が刊行した英文の日本研究誌『MONUMENTA NIPPONICA』(2,420円)。海外からの方に人気の、日本にまつわる洋書の1冊です。
栞(792円)は、『北澤書店』入り口の壁紙の花柄がデザインされた、存在感のあるデザイン。
『北澤書店』には、書籍以外のヴィンテージ小物が並ぶコーナーもあります。日本の古切手、昔のポップなデザインのマッチ箱のラベル、フランス製のピンズなど、小さくて持ち帰りやすいアイテムは、お土産としても人気です。なかでもマッチ箱のラベルは、大正や昭和の時代に飲食店やホテルなどで配られていたもので、広告としても使われていたため、当時の広告デザインを楽しめるのが魅力。コレクターも多いアイテムです。『北澤書店』では、こうした小物もひとつひとつ丁寧にパッキングされ、古書と同じように大切に並べられています。
郵便局の押し印もついた、使用済みの古切手(各550円)もきれいにパッキングされています。
『北澤書店』には、洋古書の魅力を空間づくりに活かす取り組みもあります。それが『KITAZAWA DISPLAY BOOKS』。ディスプレイの装飾として洋古書を提案するサービスで、服飾業界で約10年活躍した里佳さんが4代目を継いだあとにはじめたもの。映画やドラマの撮影の現場、店舗やショールームの内装など、さまざまなシーンで活用されているそう。装丁だけではわからない、本の内容も含めて提案することができるのが、古書店ならではの強みだと、里佳さんは言います。また、ディスプレイとしても存在感のある美しい装丁の本は、海外から訪れた人がお土産として購入することもあるそう。※現在提案サービスは終了、店頭販売のみ継続。
背表紙まで繊細な装飾のある本たちはディスプレイにもぴったり。カラーで揃えて並べる提案を見て、自宅の本棚づくりの参考にしたくなる人も多いそう。
『北澤書店』に生まれながらも、一度は好きな服飾の仕事に就き、4代目を継いだ里佳さん。その経験は『北澤書店』のさまざまな箇所に活かされています。
3代目のお父様もまだまだ現役。ふたりの穏やかな人柄にも癒やされる、五感で味わう古書店です。
この記事の内容は2026年07月27日(公開時)の情報です













