日本の文豪や文化人たちが愛した「最中」の名店
140年以上にわたり、銀座の和菓子文化を支えてきた最中の名店『空也』。銀座の手土産といえば必ずその名が挙がるほど広く知られているのが、看板商品の「空也最中」です。自家製のつぶし餡と、香ばしく焼き上げた皮が絶妙に調和した味わいは、創業から変わらないおいしさ。文豪・夏目漱石をはじめ、数々の文化人に愛されてきた時代を超えた名品です。
銀座の中心地・並木通り沿いにたたずむ『空也』は、1884年(明治17年)に上野池之端で創業した和菓子店です。戦災により銀座へ移転して以来、最中の有名な店として街の人々に親しまれてきました。屋号の『空也』は、初代店主が、平安時代に浄土教の僧として活躍した空也上人(くうやしょうにん)の念仏を広めた「関東空也衆」の一人だったことから名づけられました。関東空也衆は、念仏踊りを楽しむ町の旦那衆の集まりのようなもので、仲間意識が強く、初代が菓子店を始めるときにも手助けしてもらったのだとか。『空也』の最中がひょうたんの形をしているのも、空也上人の杖に提げられていたひょうたんがモチーフになっているからです。
『空也』は世界的な高級ブランドが立ち並ぶ並木通り沿いに、控えめに店を構えています。
和を感じる店の片隅には、店が誕生するきっかけとなった空也上人の置物も。
“奇跡の最中”とも称される「空也最中」は、予約なしではなかなか手に入りません。店の前に最中を受け取りに来た人たちの行列ができているのは、もはや銀座の日常風景のひとつです。その形と味は明治時代から変わらず受け継がれており、創業間もない頃から夏目漱石をはじめとする文豪や画家、文化人に愛されてきました。香ばしく焦がした皮に、自家製の餡をたっぷりと詰めた最中は、日本茶はもちろん日本酒やウイスキーとも相性抜群。和洋どちらの場面でも楽しめる万能の逸品です。
購入後2、3日目の、皮とあんこにしっとりと一体感が出てきたときが食べ頃。皮のパリッと感が好きな人は、自宅で温め直してもOK。空也最中10個入り(自家用箱)1,200円。
「空也最中」は、店舗と同じビル内にある自社工場で開店の約3時間前から製造されています。かつて最中の製造は全て手作業で行われていましたが、現在では餡の製造から成形までの工程を、機械と手作業で分担。機械を導入したことで製造個数は飛躍的に増えましたが、作りたてのおいしさを保つため、1日の販売個数は8,000個を上限とし、製造した分はその日のうちに売り切るというスタイルを貫いています。
創業当時から変わらぬレシピで作られる最中は、保存料や添加物を加えず素材の風味を活かすことを徹底。こだわりの餡は、北海道十勝の減農薬小豆と、餡のために選び抜いた砂糖で作ったつぶし餡です。味の決め手となる焦がし皮は、初代と交流のあった歌舞伎俳優・9代目市川團十郎が最中を火で炙って食べていたことから誕生したという、銀座らしい逸話も残っています。
こだわりの焦がし皮は、200年以上続く種屋(皮の専門業者)が空也専用に焼き上げたもの。その日の湿度や天気など、あらゆる要因を見ながら職人が焼き上げています。
『空也』の店頭では「空也最中」に加え、時期によって種類が変わる季節の生菓子も販売しています。生菓子は通年販売の「空也双紙」をはじめ、練切や流し物、饅頭、求肥など、趣向を凝らした常時6種類をラインナップ。職人の技術が詰まった美しい見た目と、口に広がる繊細な味わいから、四季の移ろいを感じられます。また、生菓子は事前に連絡することで、種類や個数を自由に組み合わせて購入することも可能です。最中と一緒に、自分へのささやかなご褒美として味わってみては。
「空也双紙」は、「空也」の文字の焼印を押したカステラ生地を四角くカットし、餡を挟んだ人気商品。1個220円で、3個から個別販売。
季節の和菓子は3個入りから選べます。値段は種類・個数によって変動。
この記事の内容は2025年08月31日(公開時)の情報です