アイウェアの常識を変えたブランド『Zoff』の軌跡

“メガネを着替える” という発想を世界へ。アイウェアブランド『Zoff』は、視力を補う道具だったメガネをファッションやカルチャーの領域へと広げてきました。手頃な価格、即日受け取り、そしてMade in Japanの品質。下北沢の一号店から始まったその革命は、“見る”という体験の新しい価値を東京から世界へ発信しています。

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下北沢から始まった“メガネを着替える”という革命

2001年、アイウェアブランド『Zoff』の物語は世田谷区にある下北沢の一角から始まりました。当時の日本では、メガネは「視力を補うための道具」であり、どこか “特別なもの” として扱われていました。価格も高く、店舗は静かで格式ばった空気を漂わせていた時代。そんな常識を打ち破りたかった創業者が選んだのが、カルチャーの街・下北沢です。
 
「ここには、自由な発想を楽しむ若い世代が集まっている。新しい価値観を生み出すには、下北沢がいちばんふさわしい」。そう考えた創業者は、ガラス張りで明るく、誰でもふらりと立ち寄れるような店をつくりました。ポップな外観と内装、リーズナブルな価格、その場でメガネを完成させるスピード感――これまでの “入りづらいメガネ店” のイメージを、軽やかに覆したのです。
 
「メガネをTシャツのように着替える」という発想も、当時としては画期的でした。そのコンセプトは、創業者がアパレル業界出身だったことから生まれたもの。洋服がその日の気分や季節で選ばれるように、メガネもまた自分を表現するファッションの一部であるべきだと捉えたのです。当時、メガネを買う理由の多くは「壊れた」「見えづらくなった」「無くした」といった“必要性” にとどまっていました。そこに「楽しさ」や「個性」という新しい価値を見いだし、日常のスタイルとしてメガネを楽しむ文化を提案したのです。

2001年に下北沢にオープンした一号店の当時の外観。創業20周年の節目となる2021年にリニューアルされました。

明るく親しみやすい店内には、手に取りやすいように商品が並び、当時の「入りづらいメガネ店」というイメージを一新しました。

オープン時に配布された折込チラシ。印象的なビジュアルと「メガネは5,000円の時代に」というメッセージが、『Zoff』の掲げる “メガネをもっと自由に” という理念を象徴するものとして注目を集めました。

初期に展開していたメガネの一部。当時のトレンドシェイプであった天地(メガネのフレームの縦幅)が狭いデザインが多く、またカラフルで個性的な配色が特徴でした。

『Zoff』の初期ロゴとして採用されたシベリアンハスキーの子犬。目の周りの模様がまるでアイウェアをかけているように見えたことから、このモチーフが選ばれました。

メガネは「見るため」の道具であると同時に、「魅せる」ためのものでもある。さらに言えば、人の心や生活を豊かにする可能性を秘めたアイテムです。『Zoff』はその価値を掘り起こし、誰もが気軽に自分を表現できる時代をつくろうとしました。
顔の中心にあるメガネが、その人の個性を語る主役になる――。そんな新しい時代の幕開けが、下北沢という街から静かに始まったのです。

最短30分で完成するアイウェア。『Zoff』が生んだ新しい体験

『Zoff』が誕生した2000年代初頭、メガネを購入するには数日待つのが当たり前でした。視力測定、フレーム選び、レンズ加工――それぞれが別工程で行われ、手にするまでには時間もコストもかかる。そんな常識を変えたのが、『Zoff』のビジネスモデルです。
 
製造から小売までを自社で一貫管理するSPA方式を、アイウェア業界でいち早く導入。商品企画から生産、販売までの流れを自社で完結させることで、在庫の最適化と価格の明確化を実現しました。
そして何より画期的だったのは、店舗内でレンズ加工を行えるシステムの導入です。購入からわずか30〜45分でメガネが完成する。このスピード感が、都市生活者の時間感覚にフィットし、「欲しい」と思った瞬間に手に入る新しい購買体験を生み出しました。

企画、製造、販売までを一貫して自社で行う「SPA方式」。これにより、品質を犠牲にすることなく、メガネを適正な価格で提供することが可能に。

スタッフが最初の提案から測定、加工、お渡しまでを一貫して対応。通訳機を活用し、海外からの来店客にもきめ細やかなサービスを提供しています。

店内に設置された加工機でレンズを加工。『Zoff』では店舗内または近隣でレンズ加工を行うことで、購入から30〜45分ほどでメガネを受け取れるスピーディなサービスを実現しています。

商社を挟まず工場へデザイン発注を直に行うことでデザインの幅も広がり、常時1,600種のフレームと、月に100種類近くの新商品が並びます。

これらの背景には、創業当初からのシンプルな問いがありました。
「なぜメガネはこんなに高額なのか」「なぜ顔の中心にあるのに、もっとおしゃれを楽しめないのか」。
こうした顧客目線の疑問から生まれたのが、『Zoff』の象徴的な取り組みである “5,000円/7,000円/9,000円のスリープライス” です。
 
当時のメガネ業界では、フレームとレンズの価格が別々で、最終的な支払い金額は会計の瞬間まで分からないのが当たり前でした。『Zoff』はその不透明さをなくし、初めから価格を明示することで「もっと気軽に、安心してメガネを買える」体験をつくろうと考えました。5,000円/7,000円/9,000円という3段階の価格は、Zoffが考える “メガネの適正価格” 。シンプルで分かりやすいプライス設計は、メガネを “特別な買い物” から “日常のファッションアイテム” へと変えていきました。
 
価格を下げることが目的ではなく、「買うプロセス」そのものをデザインすること――。
それが、『Zoff』が描いたもうひとつの革命だったのです。

『Zoff』が大切にする遊び心とものづくりへの情熱

“手に取りやすい価格”で知られる『Zoff』ですが、その根底には常に「品質へのこだわり」があります。大量生産を行いながらも、早くからMade in Japanラインを立ち上げ、国内工場とともに精密な設計と高い仕上げ精度を追求。生産の中心地・福井県鯖江では、熟練職人による分業体制のもと、工程ごとに細かな品質チェックを重ね、卓越した完成度を保っています。海外工場でも日本人技術者や自社スタッフが現地指導を行い、“どこでつくっても『Zoff』クオリティ”を実現しています。
 
こうした技術基盤の上で『Zoff』が重視するのは「顧客の課題解決から始まる発想」。日々の接客を通じて得た声をもとに、デザイナーやエンジニア、店舗スタッフが連携し、現場発の開発を進めています。2011年に発売された『Zoff SMART』は、「重い」「壊れる」「掛け心地が悪い」といった悩みを解消した結果、累計950万本売れている大ヒット商品。ぐにゃりとフレームを曲げることができるオールラバー製の『Galileo』など、今まで世になかったアイウェアを次々と開発。さらに2024年に登場した『Zoff COLORS』は、カラーレンズや紫外線量で色が変わる調光レンズ、偏光レンズ・ハイコントラストレンズの総称で、多彩な機能を備えたファッショナブルなレンズとして注目を集めています。まだ日本では十分に浸透していない “目の紫外線ケア” を日常に取り入れ、ファッションとして楽しみながら目を守る文化を広げていく――『Zoff』は、そんな新しい習慣を創り出そうとしています。

“メガネの聖地” 福井県鯖江で職人が手がけた『Made in Japan』シリーズ。日本ならではの高い技術で、約3.6g、テンプルの直径約0.75mmという極細かつ超軽量のフレームに仕上げています。

『Made in Japan』シリーズの『hexagon』。フロント素材は軽く、強度の高い日本製の純チタンを使用。ダイヤモンドカットを施し、細部まで存在感を際立たせている。19,900円

自然な色味で日常使いしやすいものから、しっかりとまぶしさを軽減する濃色タイプまで、幅広いラインアップを揃えた『Zoff』オリジナルのカラーレンズ。

2025年に、「カラー調光機能」「ハイコントラスト機能」が登場。写真は、屋内や夜間は薄い色に、昼間の屋外では紫外線により濃い色に変化する “カラー調光機能” のイメージ。

『Zoff』のデザイナーが細部までとことんこだわって商品化した『DESIGNERS DIRECTION LABEL』より2000年代のトレンドを現代向けにアップデートした『REMASTER』。13,300円

無駄を削ぎ落としたミニマルデザインが、上品で知的な印象を演出する『D.D.Spectacles』。クラシックなレンズシェイプやサイジングも相まって、長く愛用できる飽きのこない名品です。13,300円

フロントに繊細な彫金を施した、華やかで重厚感のある『VOLQUE』。8mm厚のフレームとバロック調の装飾が織りなす存在感で、シンプルにも個性的なスタイリングにも映える一本です。16,600円

『STROBE XX』は ミリタリー&ワークスタイルに着想を得た重厚なデザイン。マットチタンやプラスチックを組み合わせ、無骨なメタルパーツが際立つ。知的さと力強さを併せ持つコレクションです。16,600円

『Zoff』の開発には、常に“遊び心”があります。アニメキャラクターやファッションブランドとのコラボレーション、豊富なカラー展開や限定デザイン、そして季節やトレンドに合わせたテーマ企画など。その自由な発想を支えているのが、デザイナー主導のプロジェクト文化です。『DESIGNERS DIRECTION LABEL』など、デザイナーがテーマ設定や素材選定に積極的に関われるプロジェクトを設け、社内全体でアイデアを共有しやすい環境を整えています。そんなオープンな文化が、新しいプロダクトやコラボ企画を生み出す原動力になっているのです。

東京から、世界の常識を変えていく。『Zoff』の次なる挑戦とは

2001年、下北沢から始まった『Zoff』の挑戦は、いまや日本全国、そしてアジアへと広がっています。その原点にあるのは、変わらず “東京発” の感性――カルチャーと生活のあいだを軽やかに行き来する自由な精神です。その空気を纏いながら、『Zoff』は新たなステージへと歩みを進めています。
 
現在では世界中から旅行者が訪れ、英語・中国語・韓国語など多言語対応を進めるほか、スタッフが通訳機を携帯し、海外のお客様にも日本のお客さんと同じような丁寧な接客を提供。最短30分で完成するスピード感と、「フレームとレンズのセットで5,500円から」という手に取りやすい価格帯も高く評価されています。
 
2020年には新しいブランドコンセプト「Eye Performance」を掲げ、メガネを “視力矯正の器具”から “人生を豊かにするツール” へと再定義しました。スニーカーが身体能力を高め、コスメが美を育むように、『Zoff』は “見ること” “魅せること” を超えて人の感性を刺激する存在を目指しています。開発の原点は、ニーズではなくウォンツ(Wants)を満たすこと。「まだ世の中にないもの」を生み出すべく、現場の声を起点にEye Performanceを高める製品づくりを続けています。また、紫外線が目に与える影響を伝える教育活動にも注力。『Zoff COLORS』をはじめとする多彩なカラーレンズを通して、“ファッションとして楽しみながら目を守る” という新しい文化を広げています。

現在の 『Zoff』のロゴ。創業からブランドを象徴してきたシベリアンハスキーの子犬を、20周年を機にイラストへとリニューアルしました。

YouTuber、起業家として活躍する河野玄斗のブランド『RIRONE」とのコラボモデル。余分な視覚情報をカットし勉強時の集中力を高める設計。軽量素材と快適な掛け心地で、受験生にも最適な一本です。

「メガネときどきサングラス」はフロントアタッチメントをマグネットで簡単に着脱可能。メガネとサングラスをかけかえる必要がない便利な2WAYシリーズです。

子どもたちの“目の健康”を守るために『Zoff』では出張授業を行なっています。楽しみながら学ぶことで、子どもたちが目の健康やデジタル機器との付き合い方、紫外線対策の重要性について考えるきっかけになることを目指しています。

『Zoff』と東京都の女子聖学院中学校高等学校の連携により、国内で初めて学校指定のサングラス着用が認められました。 生徒の目を紫外線から守る新たな取り組みです。

デザインと機能の融合、カルチャーとの共鳴、そして社会へのまなざし。『Zoff』はメガネを通して、ライフスタイルそのものをデザインしようとしているのかもしれません。それは単なるブランドの進化ではなく、東京という街が持つ “新しい価値を生み出す力” を世界に届ける挑戦です。
これからの時代、メガネはきっと “見るため” だけのものではなくなる。その人の生き方や感性、日々の選択を映し出すパートナーへ。『Zoff』はこれからも、自由で、楽しく、気軽に。人と社会の “Eye Performance” を高めるために、東京から世界の常識を更新し続けます。

Text: Shingo Akuzawa / Edit: Hajime Sasa