独自の発展を遂げた日本の『ザ・ノース・フェイス』を深掘り

世界中で親しまれている『ザ・ノース・フェイス』ですが、日本には、独自に開発したアイテムや日本ならではの店舗があります。サイズや配色のアレンジだけでなく日本のニーズに合わせて開発したデザインは、海外ユーザーにとって新鮮なのだとか。そんな日本独自の『ザ・ノース・フェイス』の背景に迫ります。

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日本独自の展開の鍵を握ったのは、タブーへの挑戦

アメリカで1966年に誕生したアウトドアブランド『ザ・ノース・フェイス』は、本格的なアウトドアアイテムのみならず、ファッション性を併せ持つ日常着としても幅広いユーザーに親しまれています。日本では1978年に販売が開始されました。以来、どのように認知を広げていったのでしょうか。日本国内で流通する商品の開発を手がける株式会社ゴールドウインで商品企画を担当しマネージャーを務める飯島和宏さんによると、日常使いの商品の開発がブランドの認知拡大を進めるきっかけになったと言います。

「我々ゴールドウインが『ザ・ノース・フェイス』の輸入販売を日本で開始した当時、ブランドの主なユーザーは登山をされている方がメインでしたから、アウトドア用品専門店での取り扱いがほとんどでした。その後、1994年に当社が商標権を買い取ってから、国内ユーザーだけに向けてデイリーに着られる商品を増やしていきました。それをきっかけに、アウトドア専門店での販売から自社直営店での販売に重きを置き、店舗数の拡大を進めていきました」

取材はプレスルームにて。

商品企画マネージャーの飯島和宏さん。趣味は川釣りと野外音楽フェス。

『ザ・ノース・フェイス』がファッションアイテムとして受け入れられ、多くのユーザーに認知拡大した背景には、アウトドア業界のタブーへの挑戦がありました。

「アウトドア業界では、黒や暗い色のウェアは視認性の悪さから遭難のリスクが高まるため、タブーとされていました。当時、まだあまりアウトドアユーザーが多くなかった日本で我々が企画したのは、黒いウエア。今でこそ、当たり前になっていますが、企画当初はアウトドア専門店ではなかなか扱ってもらえませんでした。そのことをきっかけに、思い切って直営店での販売に注力する方向に舵をきりました。その後、直営店での反響を受けて、日本のマーケットに向けたオリジナル商品を徐々に増やしていき、現在のブランドイメージが広く浸透していきました」

現在、ゴールドウイン社が手がける商品は、日本国内で販売されている商品の約95%を占めるのだとか。デザインから新規で起こすものもあれば、本国と同じ定番アイテムもありますが、どちらも日本市場向けに改良が加えられています。

「ぱっと見定番アイテムでも、日本国内で流通しているものは、実は別物になります。サイズやシルエットはもちろんですが、日本の気候に合わせて素材選びやディテールの仕様なども、独自の視点で日本仕様に改良されているんです。単なる色別注、サイズ別注ではなく、生地の開発から手がけている商品などは、まさに日本らしい商品といえると思います」

定番ライトアウター、マウンテンライトジャケットは、切り替えの配色や素材を日本国内向けにアレンジ。44,000円

通気性のいいメッシュ生地を使った軽いアウター。防虫機能やUVカット機能を搭載している。 19,800円

コットン100%でありながら化学繊維のような速乾性を発揮する日本独自開発素材を採用。2枚入りパックTシャツ。 8,800円

優れた透湿防水性で知られるゴアテックス素材のレインブーツ。コンパクトに持ち運びできるようアッパーが折り畳める。 27,940円

アウトドアギアではなく、ビジネスシーンでも使えるバックパックは日本国内企画ならではのデザイン。 28,600円

海外ユーザー向けに日本文化を取り入れたアイテムを販売開始

訪日観光客の増加に伴って、より日本らしい商品を求める声が増えてきた昨今。日本文化のエッセンスを取り入れたアイテムの販売もスタートしています。中でもひときわ異彩を放っているのが、漢字や着物といった日本に古くからあるカルチャーをモチーフにしたデザインと『ザ・ノース・フェイス』ならではの機能面の融合したアイテム。

「例えば、日本古来の伝統着である法被から着想したハッピジャケットや、漢字をモチーフにした作品で知られる日本人アーティストのスニーカーウルフ氏がグラフィックデザインを手がけたTシャツは、日本らしさを追求したデザインです。海外ユーザーはもちろんのこと、日本のユーザーからの評判もいいですね。ザ・ノース・フェイスならではの機能面と日本らしいデザイン、そして日本でしか買えない特別感もあいまって、訪日観光客の注目を集めています」

『ザ・ノース・フェイス』の定番、マウンテンジャケットのような肩の切り替えデザインと、日本の伝統着である法被の形を融合させたジャケット。15,950円

法被をモチーフにしたデザインを、透湿防水性に優れたゴアテックス素材で。付属のスタッフバッグにコンパクトに収納できる。 33,000円

フロントのファスナーは、上からも下からも開閉できるダブルジップ仕様。

アルファベットを漢字風にアレンジした作品"Kanji-Graphy“でおなじみのアーティスト、スニーカーウルフ氏によるグラフィック。ブランドの頭文字「TNF」を漢字調にアレンジ。 各8,250円

こちらもスニーカーウルフ氏がデザインを手がけた一着。日本画から着想したデザインがインパクト抜群。各8,250円

独自のサービスを展開する日本国内のさまざまな直営店舗

直営店舗を独自に展開してきた日本の『ザ・ノース・フェイス』には、現在、原宿と渋谷だけで8店舗もの直営店があり、それぞれコンセプトや商品構成に特色があります。この狭い範囲にこれだけの店舗数が存在するのは、海外の『ザ・ノース・フェイス』にはない特徴なのだそう。

渋谷パルコ内にある、ザ・ノース・フェイス ラボ。

明治通り沿いの旗艦店、ザ・ノース・フェイス マウンテン。

旗艦店に隣接するザ・ノース・フェイス オルター。

旗艦店に隣接するザ・ノース・フェイス オルター。

中でも、渋谷パルコの『ザ・ノース・フェイス ラボ』は自分のサイズや好みに合わせてカスタマイズできる『141 CUSTOMS』というサービスで注目を集めています。3Dスキャンシステムを使って個々の体型に合わせたパターンを作製し、表地や裏地、ファスナー、ボタン、ロゴなどの色を自分好みに組み合わせられるというもの。世界に一着しかない、自分だけの『ザ・ノース・フェイス』のアイテムをつくれるのです。

ブランド初期に誕生し、今でも冬の定番として人気を集めているマウンテンジャケット。『141 CUSTOMS』ではmm単位でサイズ調整できます。

グローバルブランドである『ザ・ノース・フェイス』の日本企画が日本のニーズに細やかに対応できたのは、次の時代を見据えた絶え間ない努力を続けているゴールドウイン社の功績があったから。日本での地位を確立し、さらに海外ユーザーの目にもユニークに、そして興味深く映る日本の『ザ・ノース・フェイス』に、日本国内のみならず、海外からも期待が高まっています。

『ザ・ノース・フェイス オルター』について詳しく知る

Photo: Wacci / Text: Aizawa Shuichi(PineBooks Inc.)