2009年にスタートし、アジア最大規模のアートブックフェアとして成長してきた『TOKYO ART BOOK FAIR』は、東京のブックカルチャーの魅力を象徴する場となっています。イベントの反響や海外の方から見た東京のアートブック文化の価値について、イベント主催メンバーである東さんと黒木さんにお聞きしました。
世界各地で開催されている「アートブックフェア」とは、個性豊かなアートブック、アーティストブック、ZINEなどを出版するアーティストや出版社が一堂に会する場。本好き、アート好きにはたまらないイベントです。
東京でも年に一度『TOKYO ART BOOK FAIR』が開催。2024年11月に東京都現代美術館で行われた第14回には、国内外から約300組の出展者と2万5000人を超える来場者が集まりました。
その始まりは2009年。「初回は、表参道の『EYE OF GYRE』と『Vacant』で『ZINE'S MATE: TOKYO ART BOOK FAIR 2009』という名前でスタートしたんです。『TOKYO ART BOOK FAIR』のみだと名前だけが立派になってしまうのでは? という不安もあって。ちょっとダジャレっぽいネーミングになりました(笑)」(東さん)
発端は、2008年にニューヨークのアートブックフェアに出展していた書店『Utrecht』の元代表・江口宏志さんとロンドンで『PAPERBACK』という雑誌を手がけていた東さんたちが 、日本にもいろんなおもしろい本を作っている出版社やアーティストがいるし、美しい紙もたくさんあるし、印刷や製本の技術も高いのだから東京でもアートブックフェアをやりたいね、という雑談から始まったのだとか。
そこから毎年開催しているうちに会場も点々と変わり、規模も拡張。「 オーガニックに成長してきました。 出展者や来場者の方たちと一緒にフェアを育てている実感があります。今でも初期からずっと出展してくださっている方もいます」(東さん)
最初はZINEって何? アートブックって何?だった人も、一度行くとそのおもしろさに気づく。一般の書店には売っていないような本に出会える、作り手と話せる、あるブース目当てに行ったけど横のブースも気になり偶然の出会いがある……そんな風にアートブックフェアを楽しむ人が増え、今や「アジア最大級」にまで成長しています。
『TOKYO ART BOOK FAIR』では、毎回ひとつの国や地域に焦点を当てて紹介する 「ゲストカントリー」というプログラムがあり、2024年はドイツをフィーチャー。人気アーティストのステファン・マルクスやベルリンのアートブックフェア『MISS READ』、世界一美しい本を作るといわれる出版社『Steidl』など、ドイツのアート出版を牽引するブックメイカーたちを紐解く展示が行われました。こうして、世界のアートブック事情をリアルに体験できるのも魅力のひとつ。
出版社『Steidl』のコーナーにはビジュアルブック約 1,100 タイトル並んでいた。
「ゲストカントリー」のドイツ以外にも、海外からの出展が年々増えて、2024年は、出展者の半数近くが海外からの参加だったそう。「ZINE’S MATE AREA」という、活動をはじめてまもない作家や個人で活動しているアーティストを中心とするエリア担当の黒木さんによると「近年は、韓国、台湾、インドネシア、シンガポール、タイ、中国などの各都市でアートブックフェアが開催されています。ZINE’S MATE AREAにも、アジア各国から本当にたくさんの出展応募があり、アートブックシーンの盛り上がりを感じています 」。
それにしても、なぜ『TOKYO ART BOOK FAIR』が海外の方々からこれほどまでに注目されているのでしょう?
「『東京』自体 が人気なのも理由のひとつだと思います。ドイツのアートブックフェア主催者の方から『東京はアジアの中でも欧米とのつながりが特に強く、ユニークな都市』と言われました。もしかしたら東京は 欧米の人にも、アジアの人にも身近に感じられる場所なのかもしれません」(東さん)
「欧米ではアートブックがアートの文脈と地続きですが、日本のアートブックシーンでは、同人誌やミニコミなどの自費出版文化をはじめ、様々なサブカルチャーの影響も大きいため、より独自で多様な表現が展開されているのではないかと思います」(黒木さん)
たしかに、会場には本以外にも雑貨やアパレルなどで表現するクリエイターも多く、国境を超え、アートの表現方法も自由。ある意味カオスな会場こそ、「東京らしい」のではないでしょうか?
「東京には素晴らしい書店がたくさんあります。『蔦屋書店』のように幅広くセレクトする書店もあれば、神保町のように古いアーカイブが揃うエリアもある。さらには店主の趣向が反映された独立系書店、写真や ZINEなど特定のジャンルに特化した専門店などもあります。本のセレクションに個性があり、それぞれ魅力的です」(東さん)
『TOKYO ART BOOK FAIR』に参加する外国人の方々の中には、東京の書店巡りを楽しみにしている人も多く、「神保町はもう知っているから、別のエリアの書店を教えてほしい」とリクエストされることもあるそう。それほど、アートブック好きにとって「東京は本の街」なのです。気になる書店がある町を訪れることで、その町の文化に直接触れられる。観光地では味わえないリアルな日本が体験できるのも醍醐味。「住宅地や普段あまり行かないエリアにある書店に行くと、近所の喫茶店や公園とかローカルの人たちが行く場所を巡るのも楽しいですよね」(東さん)
活気あふれる『ZINE’S MATE AREA』。
日本では、一般流通の新刊書店、いわゆる「街の本屋さん」の店舗数が減少を続けているなか、店主が選書にこだわった独立系書店の新規開業が増えており 、本の文化的意義が見直されています。「実店舗を持たないオンライン書店での開業や、ショップやギャラリー、印刷スタジオなどを兼ねた複合的な形態も増えています 。また、2024年からスタートした『Pages | Fukuoka Art Book Fair』(福岡)をはじめ、地域の魅力を活かしたアートブックフェアが各地で増えてきていると感じます。『TOKYO ART BOOK FAIR』も、東京ならではの魅力を活かした企画や取り組みを考えていきたいです」(黒木さん)
今後、『TOKYO ART BOOK FAIR』も年に1回に限らず、さまざまな場所で開催し、アートブックに触れる機会を増やしていく予定があるのだとか。アートブックをきっかけに、今までに見たことのない東京の文化に触れてみてください。
1981年熊本生まれ。2009年よりTOKYO ART BOOK FAIRのプロジェクトマネージャーを務める。2012年から2023年まで雑誌『IMA』編集部に所属。現在は福岡と東京を拠点とし、2024年、Pages | Fukuoka Art Book Fairの立ち上げに携わる。
東京生まれ。2014年より、TOKYO ART BOOK FAIR 運営メンバー。2022年より、同フェアのZINE’S MATEエリアディレクター。2023年より、オランダの出版社「The Future Publishing」のディストリビューターとして、「Dog Ears Archive and Distribution」の屋号での活動も行う。
5月2日(金)〜4日(日)
https://www.instagram.com/tokioartbookfair
12月11日(木)〜14日(日)
12月19日(金)〜20日(日)
https://tokyoartbookfair.com