60’s〜80’sを中心に、懐かしい日本のアニメ・マンガ・特撮・ゲームなどが世界的に再評価されています。サブカルの聖地・中野ブロードウェイに拠点を構える『墓場の画廊』には、そんな作品の熱烈なファンが世界中から魅力的なオリジナルグッズを求めて来訪。ショップの背景にある美学、哲学、そして文化が「再評価」される理由を紐解きました。
たとえば手塚治虫や永井豪の諸作品といったマンガや、『ゴジラ』『ウルトラマン』『仮面ライダー』などの特撮、『宇宙戦艦ヤマト』『機動戦士ガンダム』などのアニメなど、現在まで展開の続く人気作の原点は60's〜80'sにあります。そこには“普遍的な魅力”が宿っているのです。
「『墓場の画廊』では、時代背景を意識しつつも、単なる“懐かしさ”にとどまらず、その作品が持つ“普遍的な魅力”を重視しています。現代に生まれる新作も、必ず過去の作品の文脈の上に成り立っているという視点を大切にし、そうした作品が持つ本質的なメッセージやアートとしての価値を深掘りし、より多角的に楽しんでもらえるよう心掛けているんです。過去の作品を現代の視点で読み解くことで、その魅力を多くの世代に伝えたいと考えています」と、『墓場の画廊』を経営する株式会社CRAZY BUMPの企画営業部・友田絢子さん。
60’s〜80’sを中心とした日本のアニメ・マンガの魅力が体感できる『墓場の画廊』
『墓場の画廊』で開催された、永井豪先生の画業50周年を記念した展示がそれを証明しています。『デビルマン』『マジンガーZ』といった作品の貴重な展示やグッズを求めて、世界各地から大勢のお客さんが訪れました。
「永井豪作品は、古くから立体化されたフィギュアに定評があることから、『墓場の画廊』では各クリエイターとのコラボレーションによるソフビ作品を企画。このソフビ作品群の企画は、現在でも墓場の画廊を代表する特徴のひとつでもあります。
また海外にも多くのファンを持つ永井豪作品は、国内外から大きな注目を集めるきっかけとなりました。『デビルマン』や『マジンガーZ』は、現在に至るまで度々続編や新作がリリースされ、国内外問わずファンを拡大し続けています。その普遍的な魅力は、時代や媒体を問わず変わらない唯一無二の存在感を放ち、今後もその地位を揺るがすことはないでしょう」
さらに、巨匠の魅力に「新たな角度から光を当てる」活動として、の店舗の一角には永井豪のほか、寺沢武一、伊藤潤二、三浦建太郎のグッズを扱ったコーナーが常設されています。描き下ろしの絵を使ったグッズもありますが、その多くは既存の絵を素材として、『墓場の画廊』の優秀なデザイナーがデザインし、スタイリッシュに仕上げたもの。巨匠の長年のファンですら唸らせる、その新規性のあるデザインが求心力を生んでいるのです。
海外人気の高い、寺沢武一の『COBRA』。
ホラー漫画の第一人者・伊藤潤二作品の中でもファンの多い『富江』。
それにしても、60's〜80'sは近年、日本国内以上に海外からの視点が熱い印象です。この理由はなんなのでしょうか。
「1960年代〜1980年代は、日本のアニメ、マンガ、特撮などのサブカルチャーが爆発的に成長した時期であり、世界中で日本のカルチャーが急速に認知されるきっかけとなった時期でもあります。この時期に生まれた作品は、欧米とは異なる独自のスタイルや革新的なアイデアを持ち、その影響力は今なお続いています。
特に海外では、画一的でない幅広いジャンルや、子供向けながら大人も楽しめる絶妙なバランス感覚、独特の視覚表現や職人的な緻密な技術が新鮮に映り、それらが魅力として高く評価されていると感じます。」
取材時には『大メカゴジラ展』が行われていた。
いわゆる昭和のサブカルチャーには、現代のようにインターネットや情報があふれている時代とは異なり、限られたメディアと物理的な空間でしか情報が届かないという、その時代ならではの「熟成された特別感」があります。
「この時期の作品は技術や表現において試行錯誤が見られる一方で、既存の枠を超えようとする自由な表現が多く見受けられます。実験的なアートやカウンターカルチャー的な精神が色濃く反映され、現代の作品にも通じるプリミティブな要素が多く、これらが多くの熱心なファンにインパクトを与え続けていると感じますね」
独特な色彩感覚や線のタッチには、ある種のポップ・アートにも似たような感覚もあり、そうした作風が海外ファンには強く受け入れられているのだとか。
「また、多くの作品には仄暗い死生観や時代背景が通底し、現代のハイコンテクストで多義的なアニメ作品と比べて、わかりやすくエモーショナルで普遍的な魅力を持っています。こうした作品の“カルト的”な魅力や、時代背景における“反骨精神”は、海外のファンに新鮮に映り、特にその普遍性とエモーショナルな側面が強く共鳴しているのではないでしょうか?」
ダーク・ファンタジーの傑作として北米・ヨーロッパを中心に人気の『ベルセルク』
メジャー作品がよく取り上げられる一方で、埋もれがちな隠れた名作も多々あります。『墓場の画廊』はその作品を掘り起こす役割も担おうとしています。
「根強いファンがいながらもさまざまな理由でこれまであまり取り上げられてこなかった作品に対して、積極的に陽の目を浴びさせる『墓堀人』としての役割も担っていると自負しています。『墓場の画廊』という規模感やスタンスを活かし、隠れた名作を墓破り的アプローチで取り上げることで、新たな再評価の機運を盛り上げることに寄与することができると考えています」
その例としてあげられるのが『墓場の画廊』がオープンした時期に企画された『レッドマン』。
『レッドマン』は1972年に放映された、円谷プロによる特撮作品です。尖った魅力の “知る人ぞ知る”作品でしたが、2016年に円谷プロの公式YouTubeチャンネルで配信されると、瞬く間にネット上で人気が急上昇しました。このタイミングは『墓場の画廊』のオープン時期と重なっており、話題を受けて企画展をスピード開催したことで、非常に大きな反響を呼び起こしました。
「赤いアイツ展」 画像提供:CRAZY BUMP
「現代の倫理観から見ると、特撮ヒーローものとしては極めてバイオレンスな内容で、また1話あたり5分という短い放映時間も相まって、破天荒な物語が展開されました。しかし、初めてこの作品を目にした多くの視聴者からは、絶賛に近い好意的な評価が集まりました。
時代を経て再評価を受けるに至るまで、多くの後継作品が生まれ、ファンの視点もアップデートされてきたことが、この奇跡的な瞬間を作り上げたと感じています。これは、作品本来が持つ魅力の再発見であり、ファンと作品を結びつける場として『墓場の画廊』が携わった企画であったことに、誇りを持っています」
「配信サービスなどで新たに作品と視聴者が出会いやすくなり、時代背景を問わず、その本質的な魅力に触れられるようになったと感じています。すべての作品が過去の文脈に基づいていることに敬意を払いながら接することは、カルチャーを語り継ぐ上で非常に重要です。
この感覚は、日本の伝統であるお盆におけるお墓参りと重なる部分があります。お墓参りを通じて、改めて自分たちのルーツを知るように、現代に紐づく作品の魅力を深堀りすることで、さらに幅広い展開を生み出せると、私たちは考えています」
まずは過去の名作に敬意を払うこと。そこから日本の60's〜80'sオタクカルチャーの世界にハマってみては。