日本だけでなく、世界にもファンが拡大している『機動戦士ガンダム』シリーズのプラモデル「ガンプラ」。1980年に誕生し、爆発的ブームとなってから45年――現在、その拠点のひとつとなっているのが、お台場の「ガンダムベース東京」です。この世界最大級のガンプラショップで、一大カルチャーとなったガンプラの歴史と革新を紐解きます。
『機動戦士ガンダム』(1979年)からはじまり、2025年4月からTVシリーズがスタートした最新作『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』(2025年)まで、ガンダムの名を冠するアニメーションは断続的に製作され、人気を獲得してきました。そうしたアニメシリーズと並走し、カルチャーとしての熟成や成長に大きく貢献したのが、モビルスーツやモビルアーマーと称されるメカのプラモデル=「ガンプラ」です。
メカのフォルムや関節の動きを再現・立体化した精密な組み立てモデルは、現在まで技術の進化を続け、初心者でも組み立てやすいものになっています。一方、塗装などによってカスタマイズできる自由度は非常に高く、プラモデル愛好者からも支持を得ています。コロナ禍での巣ごもり期間がそんなガンプラへの注目度を増すこととなり、現在では日本のみならず海外、特にアジア圏を中心に人気が広がっているのです。
2017年8月、商業施設「ダイバーシティ東京 プラザ」内にオープンした「ガンダムベース東京」は、単なる直営グッズショップに留まらず、ガンプラの歴史を鷲掴みにできるスペースです。その敷地面積は約600坪。ガンプラをメインにしたショップとしては世界最大級の規模となっています。2003年に韓国で1号店がオープンし、現在では台湾、上海、タイなど海外15店舗、国内2店舗で展開されている公式ガンプラ総合施設「THE GUNDAM BASE」にカテゴライズされる施設のひとつです。
「THE GUNDAM BASE」を関する店舗としては、他にも中規模店舗の「THE GUNDAM BASE SATELLITE」や、ガンダムのお土産商品を中心に展開する「THE GUNDAM BASE ANNEX」があり、現在全世界で計26店舗が運営されています。
「ガンダムベース東京」の運営元であるBANDAI SPIRITS ホビーディビジョンは、「ガンダムベース東京はガンプラの総合施設ということで、国内のガンプラユーザーの拡大がメインです。加えてサブターゲットとして、海外層に対する取り込みを考えています。買い物だけではなく、作って、見て、学んで楽しめるガンプラの魅力発信基地です」と、その施設の位置付けを語ります。
「ダイバーシティ東京 プラザ」前には「実物大ユニコーンガンダム立像」もあり、お台場を訪れたインバウンドを含む観光客のフォトスポットとなっています。そもそも、お台場とガンダムとの関係は2009年に遡ります。2009年、お台場・潮風公園に、『機動戦士ガンダム30周年プロジェクト』の一環として実物大モデルの「RX-78-2ガンダムVer.G30th」が登場しました。潮風公園での展示は、約45日間であったのにもかかわらず、415万人以上の来場者を集め、親子二世代で訪れる姿も多く見られました。
2012年には、リニューアルされた「RG 1/1 RX-78-2ガンダムVer.GFT」がダイバーシティ東京 プラザ2F フェスティバル広場に、そして2017年には、現在の「実物大ユニコーンガンダム立像」が、「ガンダムベース東京」のオープンと連動する形で登場したのです。それまでもアニメ作品としては根強い人気を誇ってきたガンダムですが、このタイミングで国民的な作品としての地位を固めたと言って過言ではありません。そうした価値の向上に伴い、「THE GUNDAM BASE」も順調に伸び続け、福岡や新千歳空港といった要所に出店。「ガンダムベース東京」は、名乗ってこそいないものの、その旗艦店と言っても充分な存在感を放つようになったのです。
「ダイバーシティ東京 プラザ」フェスティバル広場にある実物大ユニコーンガンダム立像。ユニコーンモードからデストロイモードに変身する機構を持ち、定期的に変身が行われる。 ©創通・サンライズ ※2025年4月現在
ここで改めて「ガンダムベース東京」について紹介してきましょう。施設内は「ショップゾーン」、「ビルダーズゾーン」、「ファクトリーゾーン」、「イベントゾーン」の4つに分かれています(※現在、ガンプラの製造工程などを紹介する「ファクトリーゾーン」は一時クローズ中)。約2000種類以上の商品と、約1500種類の展示品が置かれている「ショップゾーン」は、もちろん世界最大級の品揃え。
バリエーションも豊富で、初心者向けかつ低価格の「EG(エントリーグレード)」、スタンダードな「HG(ハイグレード)」、ガンプラの最新技術が盛り込まれた最上位種「PG(パーフェクトグレード)」のほか、「SD」と呼ばれる独自の立体表現が施された商品まで多彩。数が多いのは標準的な1/144スケールの商品ですが、大きいものでは1/100スケール、さらには1/60スケールもあります。ちなみに「RX-78-2 ガンダム」の1/60スケールでは、全高が約30cmにも及びます。
究極を謳うハイエンドガンプラ「PG(パーフェクトグレード)」が展示されているコーナー。大きさやディテールも含め、どのガンプラも迫力満点。©創通・サンライズ
「SDガンダム」のガンプラが展示・販売されているコーナー。「BB戦士」は1987年に発売が開始開始され、のちに大ヒット。現在でも根強い人気を誇るシリーズである。©創通・サンライズ
また、ガンプラの大きな特徴と言えるのが、1980年に販売されたキットがその後も廃番化されず、現在でも流通・販売していることが挙げられます(※再販・在庫商品のみ)。運営担当者も、「1980年の初代ガンプラから最新のガンプラ、またガンダムベース限定品まで取り揃えた、豊富な品揃えが魅力です」と語るように、45年前のキットと現在のキットをまとめて購入することが可能となっています。最古と最新、どちらも同時に手にすることによって、時代時代のトレンドや、技術の進化がまさに「手に取るように」楽しめるのです。
例えば、1980年代前半~中盤のガンプラにはパーツを接続するために接着剤が必須でしたが、1987年12月に発売されたガンプラ以降、「スナップフィット」と呼ばれる機構を採用したことで、基本的に接着剤が不要となりました。そうしたキットの変遷を見比べたりできるのも、「ガンダムベース東京」の醍醐味なのです。そして積み上げた世界累計出荷数は、1980年の「1/144 ガンダム」以来、前代未聞の8億個を記録しています。
「ガンダムベース東京」は買う、組む、塗る楽しみ以外にも、「見る・知る」楽しみもあります。1500種に及ぶ展示品は基本的に塗装が施されていますし、ポージングも、劇中のバトルシーンを再現したものとなっており、その迫力やリアリティを感じることができます。取材時には、ガンプラの製作技術を競う年に一度の世界大会「GBWC(ガンプラビルダーズワールドカップ)」の上位入選作品が展示されており、そのジオラマや塗装も含めた超絶技巧に唸らされました。
第12回GBWCの上位入賞作品が展示されていた。©創通・サンライズ
また、今年で46周年を迎えるガンダムシリーズを紹介するヒストリーコーナーもあります。膨大な数のガンダム作品を、ガンプラと連動する形で展示されており、見応えは抜群。さらに、2024年に大ヒットした『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』や、今年1月に劇場先行版が公開され、4月からはTVシリーズがスタートした最新作『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』のガンプラとその世界観を紹介するスポットもあり、ガンプラを通してガンダムシリーズをより深く知ることができる展示が随所にあるのも嬉しいところ。これからガンダムシリーズを知りたい、という人にもオススメのスポットとなっているのです。
平日でも多くの来場者が訪れている「ガンダムベース東京」。年間の来場者数は非公開となっていますが、年齢層としては30代以上の男性がメイン、男女比は8:2ほどになっているそうです。また、運営担当者によれば、「海外からのお客さまは全体の15%ほどになります」と、日本のユーザー拡大を主軸に置きながら、海外層の新規獲得に繋がっていることは間違いありません。また、「ガンダムベースをご利用いただく海外客のみなさまには、PGシリーズやMGシリーズが人気」だそうで、高価格帯の商品を「お土産」として購入しているとのデータもあります。
原料の高騰や支持層の高齢化など、ガンプラの今後の発展における懸念材料はもちろんあります。ただ、静岡に「バンダイホビーセンター」と呼ばれる自社工場を持ち(25年1月に新工場が竣工)、企画・開発から生産まで一気通貫で行える強みがあります。運営担当者も、「国内での生産は、品質へのこだわりのほか、市場への即応性をより確実なものとするため」と、激変する世界情勢や需要に柔軟な対応を行える体制づくりに力を入れているのです。
コロナ禍以降、入場制限や購入制限、整理券の配布が行われるなど、需要が高まり続ける「ガンダムベース東京」。そうした状況を踏まえて、2023年12月からは、立像を見に来た国内外の観光客向けに、実物大ユニコーンガンダム立像のすぐそばに「ガンダムベース東京アネックス」が誕生。こちらは、ガンプラのみならず多彩で手に取りやすいグッズを展示・販売。気軽にガンダムやガンプラに触れられる施設として運営されています。
ガンプラと呼ばれるカルチャーがここまで発展したのは、ガンダムシリーズと呼ばれるSFロボットアニメの記念碑的名作へのリスペクトと、そのリスペクトをガンプラの技術発展や生産性の向上に注いだ関係者の熱意の賜物です。その熱意を、時代の変化に合わせてただ「買う」だけのショップから、「買って遊んで楽しめる」エンターテインメント施設へと発展させた「ガンダムベース東京」は、何度も足を運びたくなる磁場があるのです。
©創通・サンライズ
編集者・ライター。ガンダムシリーズのパンフレット、書籍などを数多く制作している。