世界基準のクラブが生んだ、“音をじっくり聴くため”のバー

PASS

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東京には、音楽を「聴く」ことを目的につくられたバーがあります。2026年3月、渋谷にオープンした『PASS』は、東京を代表するクラブ『VENT』を手掛けたチームによるリスニングバー。「知っている曲も、知らない曲も、もっと好きになる」をコンセプトに、ヴィンテージJBLをカスタムしたサウンドシステムで、ジャズを軸に幅広いジャンルの音楽を提供する、東京ならではのリスニングカルチャーを体験できる一軒です。

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音質にこだわるクラブが、その先に選んだ「聴く」という贅沢

扉を開けると、まず目に入るのが照明を抑えた落ち着いた空間と程よいボリュームの音楽──。グラスを置く音や控えめな会話も自然に重なり、クラブともカフェとも異なる空気が広がっています。

『PASS』は、音楽を「聴くこと」を目的につくられたリスニングバーです。この場所を手掛けたのは、東京を代表するクラブ『VENT』をプロデュースしてきたチーム。世界中のDJを迎え、身体で音楽を楽しむクラブカルチャーを発信してきた彼らが、新たに目指したのは、椅子に座り、一曲一曲の音楽と向き合う場所でした。その発想が生まれたのは、コロナ禍。休業期間中に古い音響資料を読み込み、国内外の機材を聴き比べながら、クラブや自宅では味わえない大型ピュアオーディオならではの音楽体験を追求し、ボーカルや生楽器の魅力を引き出すサウンドシステムを完成させました。

渋谷駅新南口から徒歩約3分。2026年3月にオープンしたリスニングバー『PASS』。

音楽が自然と主役になるよう設計された店内。音響とインテリアの細部までこだわりが詰まっている。

店内は、音楽が自然と主役になるよう、余計な装飾をできる限り省き、無彩色を基調とした空間に仕上げられ、バーの象徴となるカウンターには、「有機的な無彩色」をテーマに自然石が採用されています。サウンドシステム、空間設計、インテリア──店内のあらゆる要素が、「音楽を楽しむ」という一つの目的のために組み立てられています。

中央に置かれた自然石のテーブル。地球の歴史を刻んできた石と、音楽を刻むレコード。二つの「記録媒体」という共通性から、この空間の象徴として選ばれた。

音楽は、もっと気軽で、もっと楽しい

『PASS』が目指したのは、数値やスペックだけで語られる「いい音」ではなく、「音楽って楽しい」と再認識してもらうことです。音楽に詳しい方から、気軽に楽しみたい方まで、知っている曲も、知らない曲も、もっと好きになってもらうこと。そのために、スピーカーだけでなく、音の響きや空間設計、座る位置に至るまで、一つの音楽体験として設計されています。

店内に設置されているスピーカーは、ヴィンテージJBLの筐体をベースに、内部を現代の技術でカスタマイズしたオリジナル仕様です。ボーカルや生楽器の魅力を引き出し、音楽そのものの楽しさが伝わるサウンドを目指しました。クラシックなデザインと現代の音響技術を組み合わせたこのスピーカーは、『PASS』の音づくりを象徴する存在です。

ヴィンテージJBLの筐体に最新の技術を投入したオリジナルスピーカー。『PASS』の音づくりを支える一台。

その音を最もバランスよく楽しめるのが、カウンター中央に設けられた「スイートスポット」です。左右のスピーカーから届く音が最も自然に重なり、『PASS』が理想とするサウンドを体感できる特等席。初めて訪れるなら、まず座ってみたい場所の一つです。

壁には、レコードの溝を顕微鏡で拡大した写真も飾られています。普段は目にすることのないミクロの世界ですが、レコードには音楽がこうした溝として刻まれています。音を聴くだけでなく、「音がどのように記録されているのか」という仕組みにも触れられる展示は、音楽への探究心を感じさせる演出です。

こうした音響や空間への工夫は、決して機材を見せるためではありません。プロデューサーの大城啓一郎さんが目指したのは、「いい音の店」ではなく、「音楽をもっと好きになれる店」。スピーカーや空間設計は、そのための手段であり、主役はあくまでも音楽。知っている曲も、知らない曲も、もっと好きになる──そんな体験こそが、『PASS』の目指す音楽体験です。

レコードの溝を顕微鏡で拡大した写真。音が刻まれる仕組みまで楽しめる、『PASS』らしい展示。

カウンター中央が、『PASS』のサウンドを最もバランスよく楽しめる「スイートスポット」。

ジャンルを超えた、新しい音楽との出合い

『PASS』では、ジャズを軸に、ダブ、ヒップホップ、アンビエント、エレクトロニカなど幅広いジャンルの音楽を楽しめます。知っている曲をあらためて好きになったり、初めて聴く一曲が新しいお気に入りになったり。ジャンルを越えて、新しい音楽と出合えることも、『PASS』ならではの楽しみ方です。

そんな『PASS』の選曲を象徴するイベントが、月に一度開催される『ALL VINYL』です。この日は、すべての楽曲をレコードだけでプレイ。針をレコードへ落とすところから始まる音楽体験や、アナログレコードならではの質感を楽しめる特別な一日です。レコードを聴き慣れた人はもちろん、初めてアナログレコードに触れる人にとっても、その魅力を体感できる機会になっています。

レコードプレーヤーから流れてくるのは、その日に巡り合うべき一曲。

月に一度開催される『ALL VINYL』。すべての楽曲をレコードだけでプレイするイベント。

主役は音楽。ドリンクは、その余韻を彩る

ドリンクも音楽体験を構成する大切な要素の一つです。カクテルは、日本トップクラスのバーテンダーが監修。クラシックカクテルからオリジナルまで幅広くそろい、中でも人気なのが、コールドブリューコーヒーを使ったマティーニです。コーヒーの豊かな香りに、上品な甘さとレモンの爽やかな酸味を組み合わせた一杯は、ゆっくりと音楽を楽しむ時間によく合います。

もう一つの人気メニューが、メスカルを使ったスモーキーなレモンサワー。爽やかな飲み口のなかに、メスカルならではの香ばしい余韻が広がり、個性を感じられる一杯です。ワインは、ソムリエがセレクトしたナチュラルワインをラインアップ。音楽やその日の気分に合わせて、お酒を選ぶ楽しみも用意されています。


『PASS』には、「こう過ごしてください」という決まりはありません。カウンターのスイートスポットで音楽に耳を傾ける人もいれば、友人との会話を楽しみながらグラスを傾ける人もいます。予約優先ですが、空席があれば当日の利用も可能。18時から20時頃は比較的ゆったり過ごせるため、初めて訪れる人にもおすすめの時間帯です。

音楽を楽しむための音響、選曲、空間、そしてドリンク。そのすべてが、「音楽をもっと好きになってほしい」という一つの考え方につながっています。渋谷で音楽を楽しめるバーを探している人に、ぜひ訪れて欲しい一軒です。

コールドブリューコーヒーを使った人気のマティーニ。上品な甘さとレモンの爽やかな酸味が調和した一杯。1,600円

ソムリエがセレクトしたナチュラルワインもラインアップ。グラス1,400円、ボトル15,000円~

メスカルを使ったスモーキーなレモンサワー。爽やかな酸味と香ばしい余韻が楽しめる。1,300円

Photo: Yuma Yoshitsugu / Text: Hajime Sasa(Rhino)

この記事の内容は2026年08月20日(公開時)の情報です