2026.08.12
食品や日用品はもちろん、チケットの発券や荷物の受け取りまで、暮らしに必要なものが揃う日本のコンビニ。近年では、ソックスやTシャツなどのアパレルも身近に購入できるようになっています。中でも注目を集めているのが、『ファミリーマート』のオリジナルアパレルブランド「コンビニエンスウェア」です。コンビニという場所で、“その場しのぎ”ではなく、長く使いたくなる服を、どのようにつくってきたのか。クリエイティブディレクターを務める『FACETASM』のデザイナー・落合宏理さんの言葉から、そのこだわりを紐解きます。
日本を代表する大手コンビニチェーン『ファミリーマート』。近年大きな注目を集めているのが、オリジナルのアパレルブランド「コンビニエンスウェア」です。
「コンビニエンスウェア」は、2021年3月から日本で全国展開を開始。「いい素材、いい技術、いいデザイン。」をコンセプトに、日常で使える衣料品や雑貨を開発し続けています。2025年度の売上高は200億円を突破。毎年、前年比130%以上の成長を続けるなど、その勢いはとどまるところを知りません。
「コンビニエンスウェア」が登場する以前から、靴下やストッキング、Tシャツなどの衣類は各社コンビニで販売されていました。しかしそれらは急な宿泊や外出先でのトラブルなど、間に合わせで買うものというイメージが一般的でした。そんなコンビニ衣料のイメージを変えたのが「コンビニエンスウェア」です。長く使える上質な素材、誰にとっても着やすいシルエット、そして気分が上がるようなデザイン。「コンビニで買える服」を「間に合わせ」ではなく、「日常着」として選びたくなるアイテムへと変化させました。
透明のジップつきパッケージに入った「コンビニエンスウェア」の商品。
クリエイティブディレクターを務めるのは、ファッションブランド『FACETASM』のデザイナー・落合宏理さん。2016年にはリオデジャネイロ・オリンピック・パラリンピック競技大会の閉会式で衣装制作を手がけるなど、幅広い舞台で活躍しています。
「『ファミリーマート』から、『コンビニで服を買う“文化”をつくりたい』とお話をいただいたときは、ポジティブな気持ちしかなかったです。日本全国にある16,400店舗以上で“良いもの”を届けられる、デザイナーとしてそんな素晴らしいことはないんじゃないかと、即答でお引き受けしました。ただ、コンビニで “デザイン”を強く打ち出すことは、拒否反応につながるのではという懸念はあって。そういうものを払拭するためにも、まずは“信頼”を得ることが必要だと考えました。実際に店舗へ足を運んで、現場を知る、働いている方たちと会話をする、加盟店の皆さんと座談会を開く。そうやって、みんなで気持ちを合わせていくことを意識しましたね」(落合さん)
「コンビニエンスウェア」のクリエイティブディレクターを務める落合宏理さん。
「コンビニエンスウェア」で最初につくられたのは、『ファミリーマート』のコーポレートカラーをあしらった「ラインソックス」でした。厚手で丈夫なつくりと、目を引くポップなカラーリングで話題となり、発売当初は店舗によっては即日完売するほどの人気に。現在、ラインソックスを含むソックス類の累計販売数は3,600万足を突破。訪日観光客が日本土産としてまとめ買いする姿も見られるなど、今や国内外でアイコニックな存在となっています。
しかし開発当初は、懐疑的な反応があったといいます。というのも、この白地に青と緑のラインは、日本で暮らす人にとってあまりにも見慣れた「コンビニの色」。デザインとしてファッションに取り入れる感覚は、当時多くの人にとって想像しにくいものでした。その中で落合さんは、これが日本を象徴するクールなデザインであることを確信していたといいます。
「当時は加盟店や社員の方々に納得してもらうため、『このラインがいつか、グローバルブランドのロゴのように、世界で認識されている企業のアイコンになる』ということを伝えていました。それを受け入れてもらって、今では海外の人たちにも認知が広がってきている。このソックスを通して、日本発のコンビニである『ファミリーマート』を象徴するラインのデザインに、新しい価値を与えられたのではないかと思っています」(落合さん)
そしてもうひとつの定番アイテムが、USAコットンを使用した「アウターTシャツ」。1,000円台とは思えないしっかりとした生地と丁寧な縫製に加え、トレンドのビッグシルエットを取り入れたサイズ設計も特徴です。肩の落ち具合や袖丈の長さにまでこだわり抜かれています。
「僕は『Levi’s』の501、『Hanes』のTシャツ、『CONVERSE』のALL STAR、『NIKE』のAir Jordan 1のように、今なお残っているプロダクトに対する憧れがあって、モードと同じように尊さを感じています。この「ラインソックス」や「アウターTシャツ」をはじめ、『コンビニエンスウェア』のアイテムが、そういったものと同じようにアーカイブされていくプロダクトになってほしいと思っているんです」(落合さん)
『ファミリーマート』は、日本全国に16,400店舗以上を展開し、年間利用者数は55億人を超える社会インフラ。そこに商品を置く以上、そのレベルの高さに応えるクオリティで、どんなお客さんも安心して買えるものでなくてはなりません。
「コンビニに来店する方には、全国、さまざまな環境や背景を持った人がいらっしゃいます。そうした人々に愛され、高齢の方から子どもまで、手に取ったときに心が動くものを目指して、色やシルエット、素材、パッケージをデザインしてきました。例えば『ラインソックス』でいえば、ライン幅はミリ単位で決めていますし、色味も目に入りやすいように少し明るめに設定したり。『アウターTシャツ』や『スウェット』は着ていくうちに落ち方が変わっていくような素材を選んで、経年変化も楽しんでもらえるようにしました。たとえ商品を手に取るきっかけは緊急需要だったとしても、買っていいものだったらプラスの体験に変えられる。そういうクオリティのものを目指しています」(落合さん)
また「コンビニエンスウェア」は、1回の生産量が通常と比較して多いです。大きなロットで生産するからこそ、通常ならコスト面で取り入れにくい素材や難しい仕様にも挑戦できる。その一方で、大量生産への責任もあります。ブランドとしての世界観は保ちながらも、環境配慮や供給上のトラブルがないかなどを考えていくことが不可欠だといいます。
多くの人に届くものだからこそ、素材、デザイン、品質のすべてを丁寧に整える。それが、「コンビニエンスウェア」ならではのものづくりの指針なのです。
また「コンビニエンスウェア」では、日本最大のタオル産地である今治や、文具メーカーの『KOKUYO』、時計メーカーの『CITIZEN』など、日本のものづくりを担う産地や企業とのコラボレーションもおこなっています。単に名前を組み合わせるのではなく、それぞれの技術や得意分野を、コンビニの日常性と結びつける取り組みです。
全国の16,400店舗以上に商品を供給することができ、かつデザインへの姿勢や思いをともにして作りあげることができる。「コンビニエンスウェア」が続々とヒット作を生み出せているのには、そういった企業の存在が大きいと落合さんは話します。
日本の高い技術と優れたデザインに、身近なコンビニの売場で出会えること。それもまた、「コンビニエンスウェア」ならではの魅力のひとつです。
そして「コンビニエンスウェア」といえば、透明のジップつきパッケージ。これにはコンビニの売場で衣料品を展開する上で、重要な役割があるといいます。
基本は24時間営業していて、多くの方は商品を手に取るコンビニ。商品の品質を保つためにも、フルパッケージにすることが必要でした。とはいえ生産者として、環境への負荷についても考えなくてはなりません。しかし、日々価値観が変わるエコやリサイクルへの考えを強く打ち出すことは、お客さんにとってどこか強制的に感じられるかもしれないと、懸念があったといいます。
「これ便利だな、また使えるな、と自然に思ってもらえる、“捨てさせないパッケージ”というのを念頭に考えました。充電コードや領収書を入れたり、ペンケースにしたり、濡れたものを入れたりと、いろんな使い方ができると思います。特に意識していなくても、繰り返し使うことでいつの間にか環境配慮になっている、そういうものにできればと思ったんです」(落合さん)
植物由来の原料を使用したパッケージ。上部にジップがついています。
またこのパッケージには、アイテムの素材や洗濯表示、サイズ表、着用イメージなどの情報が凝縮されています。明瞭なゴシックフォント、英語併記など、誰にとってもわかりやすい仕様であることも特徴的です。
「僕は、このパッケージもメディアの一部だと思っていて。日本が素晴らしいのは、ひらがな、カタカナ、漢字と、さまざまな文字があるところ。これは日本のブランドである、というメッセージを伝えるためにも、なるべくいろいろな種類の文字を入れたいと思っていました。また、コンビニではさまざまなルーツを持つ方々が働いています。ゆくゆくは海外展開も視野に入れていたので、英語も入れたかった。そうやって多面的に考えてつくっていきました」(落合さん)
さらに「コンビニエンスウェア」では、音楽やスポーツなど、カルチャーイベントとのコラボアイテムも人気。普段は接点のない文化へ人を導くことも、「コンビニエンスウェア」が目指す役割のひとつです。中でも毎年注目を集め、2026年に4度目のコラボを迎えるのが、日本最大級の野外音楽フェス「FUJI ROCK FESTIVAL」です。
「世界で一番クリーンなフェスとも言われている『FUJI ROCK FESTIVAL』は日本の宝。そんな素晴らしいイベントと関われているのは、すごく光栄なことです。何より僕としては、デザインを通してコミュニケーションが生まれるというのが、すごく意義のあることだと思っていて。雑誌が少なくなってきて、SNSからも自分の好きなものしか入ってこないという時代の中、人は強制的にカルチャーを知るという機会が少なくなっている。この『FUJI ROCK FESTIVAL』のコラボアイテムを見て、ただデザインがかわいいと思って買って帰ったら、もしかしたら家族やパートナーから『FUJI ROCKだ、行ったことあるよ』という話が出るかもしれないし、『20年前にあのアーティスト見た』とか、逆に最近の出演者の話になるかもしれない。そうやってひとつのデザインから会話が生まれて、知らなかったカルチャーに触れてもらえたらいいなと思っています」(落合さん)
コンビニはフェスや音楽に強い関心がある人だけでなく、さまざまな人が立ち寄る場所。だからこそ、普段ならそのカルチャーに触れない人にも情報を届けることができる。そこに、カルチャーとコラボレーションをおこなう意味があるのです。
「FUJI ROCK FESTIVAL」の会場となる新潟県湯沢町の苗場スキー場に設置した特設ブース。毎年イベントのテーマカラーに合わせた「ラインソックス」、「今治タオルハンカチ」、「今治マフラータオル」を販売。
「コンビニで服を買う“文化”」をつくりたいという思いで始動した「コンビニエンスウェア」ですが、日本ではすでに、文化として浸透してきているように見えます。
「春夏、足元が出る季節になると、街で『ラインソックス』を履いている人をよく見たりして、浸透してきているなとは感じています。いま僕としては、何十万、何百万人っていう人たちと会話をしながら、一緒に『コンビニエンスウェア』をつくっているような気持ちなんですよね。コンビニならではの早いデータ収集能力で、全国の売れ行きが、次の日に届く。この色が受け入れられたから次はこの色をやってみよう、こういうこともできるねって、リアルタイムで全国の人とコミュニケーションしながら、コンビニのアパレルをつくり上げているような感覚です」(落合さん)
「コンビニエンスウェア」は国内での成長にとどまらず、2024年11月からは台湾の『ファミリーマート』店舗でも販売を開始。今後は海外での展開もさらに広げていくといいます。落合さんは、「コンビニエンスウェア」の未来についてこう話します。
「これから先何十年と、コンビニのアパレルは発展していくはず。その先駆けとして動いていた『コンビニエンスウェア』というシンプルな名前のブランドが、日本全国、アジア、世界へ広がっていく過程を見られるのは、すごく楽しいことだと思います。いつか『コンビニエンスウェア』が、世界的に愛されるブランドになるかもしれない。そういったものが、コンビニという流通を通して生まれている。その行く先に注目してもらいたいですね」(落合さん)
また落合さんの目線からすると、コンビニは“デザインの競技場”のような空間になっているといいます。
「コンビニにはどんどんいいデザインが入ってきている中で、『ファミリーマート』もまた、『コンビニエンスウェア』をはじめ、7月にオープンしたNIGO®️さんと共創した店舗など、幅広い切り口でチャレンジングなことを続けています。国内外問わず、これからクリエイティブを目指す人たちは、コンビニでデザインをしたい、コンビニで見せたいという人が増えてくるのではないかと思うんです。そういった場所になってほしいですし、すでになり始めていると感じています」(落合さん)
“その場しのぎ”ではなく、長く使いたくなる日常着をつくる「コンビニエンスウェア」は、コンビニ文化史に新たな1ページを加えました。誰にでも開かれた身近な場所で、優れたデザイン、日本のものづくり、そしてカルチャーに出会える。その新しい体験は今、日本発のファッションムーブメントとして育ち始めています。
1977 年生まれ、東京都出身。文化服装学院を卒業し、2007 年に自身のブランド「FACETASM」をスタート。2016年、日本の新聞社が主催する「第34回毎日ファッション大賞」では大賞を受賞。さらに、リオデジャネイロ・オリンピック・パラリンピック競技大会の閉会式「フラッグハンドオーバーセレモニー」で衣装制作を手がけた。2021年、「コンビニエンスウェア」のクリエイティブディレクターに就任。
Instagram:@ochiaihiromichi







