伝説のソフビ・アーティストの遺志を継ぐイベント『4KDO10』とは

東京で不定期に開催され、その独自の世界観で熱い注目を集めているソフビ(ソフトビニール・トイ)のイベント『4KDO10』。単なる売買の場に留まらず、会場全体で緻密なムードを作り上げる「体験型」の展示スタイルは、既存のイベントとは一線を画しています。唯一無二の表現が生まれる背景と、進化を続けるイベントの未来について、主催者の4KDO10氏と造形師のPIED PIPER氏にお話を伺いました。

SHARE

X (Twitter) Share on Threads Facebook LINE

伝説のクリエーターNAGNAGNAGとの出会い

日本や中国など東アジアのアーティストが中心となって展開されるソフビ・イベント『4KDO10』。会場全体で世界観をつくりあげる、独特なスタイルで、注目をあびています。
そのイベントの真意を、主催者の4KDO10氏と造形師のPIED PIPER氏にお話を伺いました。
 

そもそもこのイベントが始まった経緯について教えてください。

4KDO10(以下4K):

私は、もともとは2017年頃からソフビの収集を始めた一人のコレクターでした。転機は2020年、世界的に著名なソフビ・クリエイターであるNAGNAGNAG(以下NAG)と出会ったことです。
 
当時、私は彼の個展を観に行き、持参していた彼の代表作《暴力原人》を取り出し、サインをお願いしました。するとNAGさんは一目見て、「これは偽物だね」と言いました。その瞬間、私は一気に緊張し、言葉を失いました。彼はすぐに「冗談だよ」と笑ってくれましたが、本当に肝を冷やしました。
 
その後、彼は私の持っていたカメラに目を留め、「ソフビの写真を見せてほしい」と言いました。写真を見た彼は、「センスがいいね。とても好きだ」と評価してくれました。そして、財布から名刺を取り出し、「今後は直接連絡していいよ」と言ってくれたのです。
 
それ以来、私たちはほぼ毎週のように食事を共にするようになりました。住まいもそれほど離れていなかったため、ある時期にはほとんど毎日のように顔を合わせることもあり、自然と関係は非常に親しいものになっていきました。
 
ある時、NAGさんから「ソフビのイベントをやりたいか?」と聞かれました。「やりたい」と答えると、彼は私にこう言ってくださいました。
 
「この世界に挑戦しようと決めた時点で、君はすでに50%は成功している。結果がどうであれ、私たちは信頼関係にある。だから、私は全力で君を支える」。

それで2022年に、NAGさんのバックアップで初めてのイベント『4KDO10』を開催されたのですね。

4K:

私はもともとソフビ業界の人間ではなかったため、初回のイベントでは、日本からの参加ブランドはすべてNAGさんの紹介によるものでした。また、中国からの参加ブランドについては、デザイナーの co.oc29 氏の紹介によるものです。
 
初回のイベントが成功を収めたことで、NAGさんからの評価と信頼を得ることができました。その結果、第2回目のイベントでは《暴力原人》を正式に発表・販売し、第3回目のイベントでは《三億円犯人》というオリジナル・シリーズを発表するに至りました。これらの経験は、単なる実績にとどまらず、私のこれまでの活動の中でも最も誇りに思える出来事の一つです。私にとって、それは金銭的な価値では決して測ることのできない、かけがえのない財産となりました。

第1回目の『4KDO10』。中央区八丁堀のギャラリーで小規模に開催された。

2023年に目黒区東山で開催された第3回目の『4KDO10』。NAGNAGNAGの新作《三億円犯人》シリーズを発表した。

ソフビの「体験重視型」イベントへの挑戦

イベントのコンセプトとして「体験」を重視されていますね。

4K:

はい。ただ買うだけでなく、ソフビを鑑賞できる場所を作りたいと考えています 。例えば2回目の展示では、ゴジラが街を壊している臨場感を高めるために、本物のビルの瓦礫を持ち込み、スモークを焚いてリアルな情景を作りました。会場の音楽もすべて新しく編集したオリジナルです。すべてNAGさんの強いこだわりによるものです。設営を一度完成させたのに、「石の高さが低い」と指摘され、すべてゼロにしてやり直しました。
 
彼は仕事に向き合う際、毎回極度の集中状態に入られる方でした。その仕事に対する慎重さは、私の想像をはるかに超えるものであり、そこには明確な「完璧」を追い求める姿勢がありました。実際に共に仕事をするようになって初めて、私はNAGさんという人物を、より深く理解することができたのだと思います。

2023年に開催された第2回目の『4KDO10』。ゴジラに破壊された市街をギャラリーに再現した。

2025年に品川区で開催された第4回目の『4KDO10』。巨大なゴジラのソフビを光と音で演出した。

PIED PIPER氏の新作《GAMORA/ガモーラ》も発表された。

「体験」を重視されていく姿勢は変わりませんか?

PIED PIPER (以下PP):

もともとNAGさん自身が、自分のブランドである「NAGNAGNAG」を体験重視で売られていたんです。彼の最初の作品《暴力原人》はアメリカで炎上して注目されました。また、アメリカのイベントでは、会場のトイレで薬の売人のようにソフビを売っていたとも聞きました。
 
NAGさんはいつも僕たちに「『4KDO10』を世界一のソフビ・イベントにしたい」と言っていました。それくらい大きな目標でやっているので、毎回新しい楽しみ方を提供して、少しずつ広がっていけばいいなと思っています。

NAGNAGNAGの代表作《暴力原人》。醜くただれた風貌でありながら美しさを感じさせる。さまざまな種類が作られた。

ソフビをアートに近づけたNAGNAGNAGへのリスペクト

イベントの起点となったNAGさんは、残念ながら2023年11月に亡くなりましたが、おふたりにとって「NAGNAGNAG」というブランドはどのような存在だったのでしょうか。

PP: 

私はNAGさんと共通の知人がいて、その人経由で「怪獣の原型を作れる人を探しているから会いたい」という連絡を2020年に頂きました。それで彼と初めて作ったのが『ゴジラvsデストロイア』のゴジラのソフビです。このゴジラはNAGさんに似ている、とよく言われます(笑)。
 
それ以来「NAGNAGNAG」専属の原型師として多くの作品を彼と作ってきました。特に気に入っていたのは、大きく口を開けたゴジラ2001(『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』に登場するゴジラ)でしたね。

《暴力原人》などNAGさんが作るソフビは、とてつもない怨念というか、NAGさんの感情のすべてが詰まっているような迫力があるんですが、一方でご自身はとても楽しい人でしたね。作品に対するこだわりは凄いので、とても厳しくて怖いですけど、やっぱり一緒にいて凄く楽しかったです。

PIED PIPER氏が原型制作し、NAGNAGNAGとして初となったゴジラのソフビ。彩色のディレクションはNAGNAGNAGが行っている

大きく顎を開けた《ゴジラ2001》。いまにも放射能を吐きそうな迫力がある。

PIED PIPERさんの作る原型は、いわゆるソフビらしい丸っこい造形ではなく、凄く尖っていたり複雑でリアルな形状をしたりしています。NAGさんはPIED PIPERさんと組むことで、ソフビの可能性を広げたかったのかもしれませんね。

PP:

今はコツを掴んできたので、ギリギリを攻めた造形が出来ていますが、前はリアルなディテールで作ると、上手く成形出来ない可能性があると言われ、原型を作り直すこともありましたね。ただ、塗装はNAGさんの独断場でした。

4K:

初めて《暴力原人》の現物を見た時、言葉が出ませんでした。写真では表現しきれない色の美しさがあるのです。本当に驚きました。ネットの写真では、きっとこの美しさは上手く伝わらないでしょう。光による色の変化は、人の目を通して生で見ないと感じられないものです。
 
もともとインディーズのソフビはアートとは別物でしたが、《暴力原人》をアートフェアに出すなど、意識的にソフビをアートにしようとしていました。ソフビの価値を高めてくれた人だと思います。

暴力原人シリーズの数々。

『4KDO10』を未来まで続け、ソフビをさらに若い世代へ

次回のイベントについて教えてください。

4K:

今年4月に開催予定で、テーマは「家・私の秘密基地」です。家とは、人の心の根幹であり、同時に私自身の「秘密基地」でもあります。
 
今回のイベント会場には、私が最も愛しているアンティーク家具店を選びました。その店は、ある日偶然に通りがかった際に出会った場所です。タクシーに乗っていた私は、ほんの一瞬、街角を視界の端で捉えただけでしたが、その空間が放つ雰囲気に強く心を引かれました。ほとんど反射的にスマートフォンを取り出し、その店を探し出したのを覚えています。それ以来、私の秘密基地で使用している展示用のキャビネットの多くは、ほぼすべてこの店で揃えるようになり、今では最も信頼し、真っ先に思い浮かぶ家具店となりました。
 
現実の「家」、すなわち私の秘密基地は、一般に公開している場所ではありません。しかし、自分自身の感覚を頼りに、奥行きと秩序のある玩具空間として整えてきました。それは、私だけの小さなトイショップのような存在です。毎日家に帰ると、私は必ずその空間に立ち止まり、作品を眺め、静かに向き合う時間を持っています。
 
私にとって秘密基地は、単なるコレクションの場ではなく、十分な安心感と精神的な満足を与えてくれる場所です。そして、この容易には再現できない私的な体験こそが、今回のイベントを通して来場者の皆さんに伝えたい「家」という感覚なのです。
 
これまでは公にしてこなかった私自身のプライベートな空間や、長年築き上げた大切な個人コレクションを、初めてみんなの前で公開する予定です。自身の経験やアイデンティティを、ソフビというフィルターを通して表現する、これまでにないパーソナルな展示となります。

PP:

私の方でも、次回の『4KDO10』に向けて新しいサプライズを用意しています。いまは4Kさんと「PIEDPIPER STUDIO」を設立して、より多くの仲間と連携して新しいものを作れる環境が整ってきました。

今回特別に公開していただいた4KDO10氏の自宅のコレクション・ルーム。

今後はどのような展望で展開していく予定なのでしょうか。

4K:

NAGさんがいなくなった後、『4KDO10』を続けるべきかどうか、ずっと考えていました。彼は物欲が本当になくて、稼いだお金は全てソフビ開発に投入していました。だから私も、NAGさんの遺志を継ぐために、全力で『4KDO10』を続けようと思います。
 
そのために、NAGさんが認めた造形師である PIED PIPER氏の作品を、国内外にもっと広めていきたいですし、個展などもやりたいと思っています。NAGさんはもういないけれど、その遺志を継ぐために、PIED PIPER 氏は創作方面を、私はビジネス方面を、という感じで、ふたり足してもまだNAGさんを越えられないけれど、一歩でも近づきたいと思っています。
 
私たちはNAGさんより若い世代です。だから、さらに若い人たちにまでネットワークを広げていきたい。それで『4KDO10』も努力して、未来まで続けていきたいですね。

 

 

対話を通じて浮かび上がってきたのは、ソフビを芸術の域へと高めた伝説的アーティスト・NAGNAGNAGの圧倒的な存在感。そして、その遺志を継ぎ「DNAを続ける」覚悟を胸に、単なる“買う場所”ではなく、世界観を“体験する場所”として、若いブランドのネットワークを広げながらソフビをさらなる高みへ導こうとする『4KDO10』の情熱と挑戦でした。
 
『4KDO10』には、NAGNAGNAGの妥協なき精神を受け継ぐ者としての覚悟が刻まれています。彼らは「DNAを続ける」ことを起点としながらも 、単にソフビを“買う場所”ではなく、その世界観に浸る“体験する場所”として、若いブランドのネットワークを広げ、ソフビをさらなる高みへと導こうとしています。師への敬意を未来へと繋ぐ彼らの挑戦は、今まさに加速しています。

EVENT INFORMATION

「家・私の秘密基地」

会場:DOUGUYA / 東京都渋谷区富ケ谷2丁目19-8 松濤マンション 1F
会期:2026年4月25日(土)〜4月26日(日)
入場方法:事前抽選制

https://www.instagram.com/4kdo10_official/

PROFILE

真実一郎

ライター、パチ怪獣ソフビ・コレクター、ソフビ研究・開発。著書『サラリーマン漫画の戦後史』(洋泉社)

X @shinjitsuichiro

Instagram @pachikaiju

photo: Susumu Moritaki / Text: Shinjitsu Ichiro